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#6258. なぜ3単現にだけ s をつけるのか? --- 教室で使える『なぜさんたんげん』レジュメ[nazesantangen][sobokunagimon][hel_education][hel_teaching_material]

2026-06-15

 一昨日6月13日(土),英語教員が集うオンライン・セミナーにて,新刊『なぜさんたんげん』についてトークさせていただく機会をいただきました.参加者が小中高などの英語の先生方ということで,本書で取り上げている数々の「英語に関する素朴な疑問」の代表選手である,「なぜ3単現の s をつけるのか?」をピックアップし,学校の授業などでそのまま使えるレジュメを作成・配布しました.そちらに若干の改変を加えて,以下のようにブログ記事化しました.
 なお,改変済みの PDF をこちらに置いておきますので,先生方におかれましては,自由にダウンロードし,配布・引用・改変していただいてけっこうです.授業の導入,学年通信,図書室の掲示用コラムなどに最大限にご活用ください.生徒からの「なぜ丸暗記しなきゃいけないの?」という疑問に,英語の歴史から明快に応える内容となっています。



【 英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか 】

1. 現代英語の「いびつな」現在人称活用

 私たちが中学校で最初に習う一般動詞の活用(例:learn「学ぶ」)を改めて見直してみましょう.

人称  単数形 (Singular) 複数形 (Plural)
1人称  I learn we learn
2人称  you learn you learn
3人称  he/she/it learns they learn


 ご覧の通り,6つのスロットのうち,「3人称・単数・現在」の場所にだけ,たった1つポツンと「-s」がついています.なぜこんな不規則でいびつなルールがあるのでしょうか?

2. 千年前の「古英語」の時代はどうだった?

 今から約千年前,現在のイングランドで話されていた「古英語」の時代には,動詞(例:leornian「学ぶ」)は主語の人称や数に応じて,以下のように語尾が激しく変化していました.

 人称 単数形 (Old English) 複数形 (Plural)
1人称  ic leorn-ie wē leorn-iaþ
2人称  þū leorn-ast yē leorn-iaþ
3人称  hē/hēo/hit leorn-aþ hīe leorn-iaþ


 当時は,主語が ic (I) なら語尾は -ie (he) なら -aþ と,きれいにすべて区別されていました.元々は「各々のスロットに,異なる語尾が存在していた」のです.

3. 謎を解く歴史の2大ドラマ

 では,なぜ千年経った今,3単現の「-s」だけが生き残っているのか.そこには「自然の言語変化」と「歴史の偶然」という2つのドラマがありました.

(1) 「自然の言語変化」による他の語尾の消失
 英語は長い歴史の中で,語尾の母音が弱まり,やがて消えていくという「自然の言語変化」を経験しました.これにより,1人称や2人称,精度,そして複数の語尾が,数世紀の時間をかけて次々と削ぎ落とされ,結果として動詞の原形(learn)と同じ形になっていきました.しかし,この削ぎ落としの経路(パターン)には方言によって色々な可能性があり得ました.

(2) 「ロンドン方言」が標準英語になったという偶然
 14世紀後半以降,イギリスの首都であるロンドンが,政治・経済・文化の絶対的な中心地として発展します.その結果,ロンドンの知識階級が話していた「ロンドン方言」が,現代の「標準英語」の直接のルーツとなりました.

 実は,当時のイングランドは「3単現に -s をつける方言」や「つけない方言」,むしろ「複数のときにつける方言」など,多様な方言が存在していました.しかし,たまたまロンドン方言が,この「3単現に -s を残す」パターンを用いていたのです.

4. 結論

 ロンドンがイギリスの中心になったのは,社会的な様々な要因はありましたが,いってみれば歴史の「偶然」にすぎません.
 つまり,「自然の言語変化によって多くの語尾が消えた」という言語の都合と,「3単現にたまたま -s を残していたロンドン方言が標準語になった」という社会の都合.この2つが奇跡的に重なり合った結果,現代の私たちはこのいびつな「3単現の s」を勉強することになっているのです!




 上記のオンライン・セミナーでの私のトークについては,参加者のお1人 Rie Miyazaki 先生が note 上で公開されている記事「【開催レポート】Galileo Neo 第3回セミナー:「AI時代の熟練指導者の腕の見せどころと,3単現のSから始まる英語史のロマン」2026.6.14」の後半にて,素晴らしい紹介とまとめをくださっているので,そちらもご覧ください.

 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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