hellog〜英語史ブログ

#3783. 大陸時代のラテン借用語 pound, kettle, cheap[latin][loan_word][germanic][etymology][history]

2019-09-05

 英語(およびゲルマン諸語)が大陸時代にラテン語から借用したとされる単語がいくつかあることは,「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1]),「#1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類」 ([2014-08-24-1]) などで紹介してきた.ローマ時代後期の借用語とされる pound, kettle, cheap; street, wine, pit, copper, pin, tile, post (wooden shaft), cup (Durkin 55) などの例が挙げられるが,そのうち pound, kettle, cheap について Durkin (72--75) に詳しい解説があるので,それを要約したい.
 古英語 pund は,Old Frisian pund, Old High German phunt, Old Icelandic pund, Old Swedish pund, Gothic pund などと広くゲルマン諸語に文証される.しかし諸言語に共有されているというだけでは,早期の借用であることの確証にはならない.ここでのポイントは,これらの諸言語に意味変化が共有されていることだ.つまり,いずれも重さの単位としての「ポンド」の意味を共有している.これはラテン語の lībra pondō (a pound by weight) という句に由来し,句の意味は保存しつつ,形態的には第2要素のみを取ったことによるだろう.交易において正確な重量測定が重要であることを物語る早期借用といえる.
 次に古英語 ċ(i)etel もゲルマン諸語に同根語が確認される (ex. Old Saxon ketel, Old High German kezzil, Old Icelandic ketill, Gothic katils) .古英語形は子音が口蓋化を,母音が i-mutation を示していることから,早期の借用とみてよい.ラテン語 catīnus は「食器」を意味したが,ゲルマン諸語ではそこから発達した「やかん」の意味が共有されていることも,早期の借用を示唆する.ただし,現代英語の kettle という形態は,ċ(i)etel からは直接導くことができない.後の時代に,語頭子音に k をもつ古ノルド語の同根語からの影響があったのだろう.
 ラテン語 caupō (small tradesman, innkeeper) に由来するとされる古英語 ċēap (purchase or sale, bargain, business, transaction, market, possessions, livestock) とその関連語も,しばしば大陸時代の借用とみられている.現代の形容詞 cheap は "good cheap" (good bargain) という句の短縮形が起源とされる.ゲルマン諸語の同根語は,Old Frisian kāp, Middle Dutch coop, Old Saxon kōp, Old High German chouf, Old Icelandic kaup など.動詞化した ċēapian (to buy and sell, to make a bargain, to trade) や ċȳpan (to sell) もゲルマン諸語に同根語がある.ほかに ċȳpa, ċēap (merchant, trader) を始めとして,ċēapung, ċȳping (trade, buying and selling, market, market place) や ċȳpman, ċȳpeman (merchant, trader) などの派生語・複合語も多数みつかる.この語については「#1460. cheap の語源」 ([2013-04-26-1]) も参照.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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