Shakespeare の諸作品と欽定訳聖書 (Authorized Version; King Jame Bible) はほぼ同じ時代に書かれていながらも,それぞれの英語は諸側面において異なっている(cf. 「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1]),「#1418. 17世紀中の its の受容」 ([2013-03-15-1]),「#3491. dreamt と dreamed の用法の差」 ([2018-11-17-1])).一般的には Shakespeare は革新的,欽定訳聖書は保守的な言葉遣いが多いとされる.Crystal (275) より,この差異を例示してみたい.当時「旧形」と「新形」の間で揺れていた動詞形態の変異を中心に,典型的な例を集めたものである.
King James First Folio old form new form old form new form bare 175 bore 1 bare 10 bore 25 clave 14 cleft 2 clave 0 cleft 8 gat 20, gotten 25 got 7 gat 0, gotten 5 got 115 goeth 135 goes 0 goeth 0 goes 166 seeth 54 sees 0 seeth 0 sees 40 spake 585 spoke 0 spake 48 spoke 142 yonder 7 yon 0, yond 0 yonder 66 yon 9, yond 45
欽定訳聖書は,序文に "The old Ecclesiastical Words to be kept, viz., the Word Church not to be translated Congregations, &c." などと述べられていることから予想される通り,保守的な言葉遣いをよく残している.宗教の言語は得てして古めかしいこと,また Tyndale 訳聖書に表された1世紀ほど前の英語をモデルとしていることなどから,欽定訳聖書のこの傾向について特に不思議はないだろう(cf. 「#753. なぜ宗教の言語は古めかしいか」 ([2011-05-20-1])).
一方,Shakespeare のような売れっ子劇作家の言葉遣いが,一般庶民の人々の生の言葉遣いに近似していたはずだということも,容易に理解できるだろう.同じ時代でも,使用域 (register),オーディエンス,目的などが異なれば,ここまで言語上の違いが出るものだということを示してくれる,英語史からの好例である.
・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
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