標題の think の活用のみならず,bring, buy, seek, teach などの活用では,過去(分詞)形に原形とは異なる母音が現われる.異なる母音に加えて,綴字の上で ght なる子音字連続が現われ,「不規則」との印象は決定的である.しかし,歴史的には規則的な動詞であり,-ed を付して過去(分詞)形を作る大多数の動詞の仲間である.ただ,大多数のものよりも多くの音変化を歴史的に経験してきたために,結果として,不規則きわまりない見栄えのする活用を示すことになっている.
Mitchell and Robinson (48--49) に従って,歴史的経緯を解説しよう.まず,think 型の動詞の古英語での形を表に示す.現在までに廃語となったもの,純粋な規則変化へと移行したものも含まれている.
Inf. | Pret. Sg. | Past Ptc. |
brenġan 'bring' | brōhte | brōht |
bycgan 'buy' | bohte | boht |
cwellan 'kill' | cwealde | cweald |
reċċan 'tell' | rōhte | rōht |
sēċan 'seek' | sōhte | sōht |
sellan 'give' | sealde | seald |
streċċan 'stretch' | strōhte | strōht |
tǣċan 'teach' | tǣhte, tāhte | tǣt, tāht |
þenċan 'think' | þōhte | þōht |
þynċan 'seem' | þūhte | þūht |
wyrċan 'work' | worhte | worht |
これらの動詞は,古英語の分類によれば弱変化第1類に属する.このクラスの動詞の特徴は,先立つゲルマン祖語の時代に,接尾辞の前位置に前舌高半母音
j をもっていたことである.これにより語幹母音は
i-mutation の作用を被り,一段前寄りあるいは高い母音へと変化した.
i-mutation を引き起こした
j は,その後,消失したり,母音
i として引き継がれたりした.
弱変化第1類の大部分の動詞においては,上記
i-mutation の作用が現在,過去,過去分詞を含む屈折パラダイムの全体に見られたが,語幹末に
l あるいは歴史的な軟口蓋子音をもつ,上に一覧した一部の動詞においては現在形の屈折にのみ作用した.この一部の動詞では,過去や過去分詞において
i-mutation を引き起こす問題の半母音
j が欠けていたのである.結果として,古英語における現在幹と過去(分詞)幹を比較すると,後者は前者よりも一段後ろ寄りあるいは低い母音,少なくともその痕跡を示すことになった.上表で
e vs
o や
y vs
u の対立を確認されたい.
cwellann,
sellan について,現在と過去(分詞)では
e vs
ea の対立を示すが,これは本来的には
e vs
æ の規則的な対立とみてよい.
æ が,過去(分詞)形にのみ生じた子音結合
ld の前で割れ (breaking) を起こし,
ea と変化したにすぎない.
また,
þenċċan,
þynċan,
brenġan に関して,過去(分詞)形で
ht の子音結合を示すが,これは *
nċt の結合が規則的に発達したものである.破擦音的な
ċ は
t の前で摩擦音
h へと変化し,
n は消失するとともに代償延長 (
compensatory_lengthening) により先行する母音を長化させた.
bycgan,
wyrċan については,予想される
y vs
u の対立を示さず,
y vs
o となっている.過去(分詞)形に
o が現われるのは,本来の
u が特定の音環境において下げを経たからだ.下げの生じる前に
i-mutation が起こったために,現在形では予想される
y が現われているが,過去(分詞)形においては下げの結果である
u がみられるというわけだ.
このように先立つ時代に様々な音変化が生じたために,古英語の共時態としては,あたかも強変化動詞のごとく母音の gradation (Ablaut) を示すようにみえるが,結果としてそのようにみえているにすぎず,起源をたどれば歯音接尾辞 (dental suffix) を付して過去(分詞)形を作る通常の弱変化動詞にすぎないといえる.
これらの動詞の詳しい歴史については,Hogg and Fulk (273--75) も参照.
seek については,「#2015.
seek と
beseech の語尾子音」 (
[2014-11-02-1]) でも触れた.
・ Mitchell, Bruce and Fred C. Robinson.
A Guide to Old English. 8th ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.
・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk.
A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.
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