hellog〜英語史ブログ

#126. 7言語による英語への影響の比較[contact][flemish][dutch][japanese]

2009-08-31

 Gelderen (102) に,Celtic, Latin, Scandinavian, French, Dutch/Flemish の5言語が英語に与えた影響の比較表がある.これに,もう一つ Greek を加えて,6言語による影響の比較表を掲げる.

 vocabularymorphologysyntax
Celticyesnopossibly
Latinyessomewhatno
Scandinavianyesyesyes
Frenchvery muchyesminimal
Dutch/Flemishminimalnono
Greekyessomewhatno


 [2009-08-16-1]の記事でフランス語と古ノルド語による影響を様々な視点から比較したのとは異なり,分野ごとへの影響を大雑把に示した表にすぎないが,いくつかの興味深いポイントが見えてくる.一般の英語史概説ではあまり扱われない項目,あるいは問題意識を呼び覚ましてくれる項目に目が止まった.

 ・ケルト語の統語への影響の "possibly" が気になる
 ・ラテン語の統語への影響が "no" というのは本当か
 ・オランダ語・フラマン語による英語への影響を,ラテン語やフランス語などと同列に比較するという視点そのものが斬新

 オランダ語・フラマン語については,従来,英語への影響という視点がフィーチャーされることはあまりなかった.確かに英語史概説書で語彙の借用の話題として軽く取り上げられることはあるが,あくまでマイナーな話題としてである.著者の Gelderen がオランダ人であり,多分にひいき目はあるだろうが,こうしたニッチな領域に関心が向けられるというのは,英語史の視点を豊かにしてくれるという点で歓迎すべきである.
 上の文章を書いているうちに,ぜひとも日本語を含めたくなった.

 vocabularymorphologysyntax
Celticyesnopossibly
Latinyessomewhatno
Scandinavianyesyesyes
Frenchvery muchyesminimal
Dutch/Flemishminimalnono
Greekyessomewhatno
Japanesesomewhatnono


 [2009-06-12-1]の記事で,「過去50年で,英語への借用語の約8%が日本語から」と紹介したので,"minimal" でなく "somewhat" としてみたが,この判断はいかがだろうか.

 ・Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.

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#142. 英語に借用された日本語の分布[japanese][loan_word][loan_translation][waseieigo]

2009-09-16

 英語に借用された日本語の数は意外と多いことは,[2009-08-31-1], [2009-06-12-1]で少しだけ触れた.英語に入った日本語だけを収集した辞書があり,眺めているとおもしろい.特に意味が歪んで英語化しているものなどは,どうしてそうなったのかと首をかしげざるを得ない.
 この辞書には,全体の語数が明記されていなかったので,手作業で数えてみた.見出し行にある異綴りや異表現は抜き,全部で820語が確認された.アルファベット順に数えたものをグラフ化してみた.(数値データはこのページのHTMLソースを参照.)

Japanese Loanwords by Initial Letter

 このなかで,"L" で始まる単語が気になった.もともとは日本語の単語だったのだから,"L" で始まるとはどういうことか.調べてみると,"L" で始まる3例のうちの一つは,love hotel だった.なるほど,和製英語が英語へ逆輸入されたケースである.
 他の2例は linked verse 「連歌」と low profile 「低姿勢の,控えめな」だが,これらはそれぞれ日本語表現の翻訳借用 ( loan translation or calque ) であって,普通にいうところの借用とは異なる.だが,日本語の表現の発想が英語に借用されたというのは,まさに言語接触のたまものである.

 ・ Toshie M. Evans, ed. A Dictionary of Japanese Loanwords. Westport, Conn.: Greenwood, 1997.

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#45. 英語語彙にまつわる数値[lexicology][statistics]

2009-06-12

 語彙の歴史を論じるとき,ある時代における本来語と借用語の分布であるとか,どの時代にいくつの新語が造られたかなど,数字の話になることが多い.英語の語彙にまつわる統計的調査はいろいろとなされているが,概説書間で異なる数値が引用されていたりして,全体として語彙に関する統計情報はまとまりを欠いているように思われる.そこで,中期的な計画として,様々な文献から数値を集めてはこのブログ上にメモとして蓄積してゆき,ときどき整理してゆくということを試みたい.
 以下に何点かを箇条書きで挙げるが,まとめていないのであしからず.

 ・古英語の語彙は約30000語 (Gelderen 73)
 ・古英語の語彙における借用語の比率は約3% (Culpeper 36)
 ・古英語の借用語の過半数はラテン語で,約450語を数える (Culpeper 36)

 ・北欧語からの借用語は約1000語 (Gelderen 97)
 ・北欧語からの借用語で,現代英語にまで残っているものは約1800語 (Culpeper 36)

 ・中英語期に借用されたフランス語単語は約10000語を越える (Culpeper 37)
 ・1066--1250年のフランス語借用は,1000語に満たない (Gelderen 99)

 ・16世紀だけで13000語ほどが借用されたが,そのうち7000語ほどがラテン語からである (Culpeper 37)
 ・ラテン語からの借用は,大陸時代に約170語,410年までのローマン・ブリテン時代に100語強,キリスト教伝来以降に150語,そしてルネサンス期に数千語が入った (Gelderen 93)

 ・現代英語の語彙における借用語の比率は約70% (Culpeper 36)
 ・過去50年で,英語への借用語の約8%が日本語からであり,約6%がアフリカ諸語である (Culpeper 38)
 ・現代において英語に加わる新語のうち,借用語は約4%にすぎず,他は既存の要素による造語である (Culpeper 38)

 今回の整理項目の典拠は以下の二冊:

 ・Culpeper, Jonathan. History of English. 2nd ed. London: Routledge, 2005.
 ・Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.

(後記 2010/05/09(Sun):古英語以来,本来語の80%が失われた可能性がある (Gelderen 73))

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