「#5171. 複数人称代名詞 we, you, they の総称的用法」 ([2023-06-24-1]) や「#5181. 複数人称代名詞 we, you, they の総称的用法 (2)」 ([2023-07-04-1]) などの記事で取り上げてきた人称代名詞の総称的用法 (generic) について.今回は1人称複数代名詞 we の総称的用法の最初期の例を示したい.
まず,OED, we, pron., n., adj. の I.1.d の語義がこの用法に相当する.語義説明には "Used indefinitely in general statements in which the speaker or writer includes those addressed, i.e. his or her contemporaries, compatriots, fellow human beings, etc." とある.初例は古英語からのもので,続く中英語からの数例とともに早い事例を挙げてみる.
・ OE On ðisum wræcfullum life we sceolon earmra manna helpan. (Ælfric, Catholic Homilies: 1st Series (Royal MS.) (1997) xxix. 258)
・ a1275 Þe louerd of monkinne of hire was yboren to bringen us hut of Sunne, elles wue weren for-lore. (in C. Brown, English Lyrics of 13th Century (1932) 55)
・ a1400 (a1325) Giue we ilkan þare langage, Me think we do þam non outrage. (Cursor Mundi (Vespasian MS.) l. 247 (Middle English Dictionary))
・ c1405 (c1385) We seken faste after felicitee But we goon wrong ful ofte trewely Thus may we seyn alle and nameliche .I. (G. Chaucer, Knight's Tale (Hengwrt MS.) (2003) l. 408)
古英語から事例があるというのは思いのほか早いとも考えられるが,一方で当然のようにも思われてきた.このような例を眺めていて思うのは,ここで we が通常の「私たち」の語義ではなく,不定・総称の語義で用いられていると解釈する根拠は何かということだ.後者は前者の拡張であり,その点で両語義は連続体を構成する.したがって,各々の例文においていずれの語義が用いられているかという判断は難しいばかりか,往々にして不可能ですらある.
鍵は we そのものではなく,OED の語義説明でも示唆されている通り,むしろ不定・総称的な「文脈」なのだろう.文の命題が一般性を帯びているものであれば,そこに用いられている we も総称的な用法を帯びてくる,ということではないだろうか.つまり,意味論的というよりは語用論的な次元の問題ということだ.同じことは you, they の総称的用法にも言えるはずだ.
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