hellog〜英語史ブログ

#4911. 意味調整における昇格と降格[semantics][modulation][collocation]

2022-10-07

 語の意味が文脈によって調整される現象は,意味調整 (semantic modulation) と呼ばれる.意味調整は本質として連続的かつ流動的で,それだけ精妙なものである.意味調整の種類1つに昇格 (promotion) と降格 (demotion) がある.文脈によりある語の特定の意味特徴が "canonical" になった場合,その意味特徴は昇格されたといわれる.反対に,ある意味特徴があり得なくなった場合,それは降格されたといわれる.Cruse (52) より例を挙げよう.

 (1) A nurse attended us.
 (2) A pregnant nurse attended us.

 (1) の nurse には,多くの場合「女性」という意味特徴が含まれているだろうと予期される.おそらく女性でありそうだ,おそらく男性ではなさそうだ,ほどの予期である.
 一方 (2) の nurse にあっては,「女性」という意味特徴は "canonical" である,つまり解釈する上で必須の意味特徴である.文脈(あるいは pregnant との共起)によって,意味特徴「女性」が,単にありそうだという地位から,そうでなければならないという地位に昇格されるということだ.逆にいえば,「男性」という意味特徴は,場合によってはあり得るという地位から,絶対にあり得ないという地位に降格されることになる.
 もう1つ例を挙げれば,

 (3) Arthur poured the butter into a dish.

という文において,butter は必然的に「液体性」という意味特徴を帯びる.通常は butter の液体性は,場合によってはあり得る程度の意味特徴にすぎないが,この文脈(あるいは poured との共起)にあっては,そうでなければならないという地位に昇格されているのである.

 ・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.

Referrer (Inside): [2022-10-08-1]

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