サッポロビールには嫌われそうですが,この話題で数日間引っ張っています(cf. 「#4300. サッポロ LAGAR が発売されました」 ([2021-02-03-1]),「#4301. 寝かせて熟成させた貯蔵ビール lager」 ([2021-02-04-1]),「#4302. 行為者接尾辞 -ar」 ([2021-02-05-1])).
なぜ正しい綴字である lager が誤って lagar と綴られるに至ったかと問うのは,責任追及の意図では毛頭なく,純粋な正書法あるいは英語学習・教育に関する関心からです.ちょっと考えてみると,-gar は身近な単語にけっこうあるのですね.名詞とは限りませんが,sugar, beggar, vinegar, vulgar といった日常語も挙がってきます.これを見ると,今回の綴り間違いに激しく同情するというわけではなくとも,英語の綴字体系そのものがおかしいのではないかという印象をもつ人も少なくないだろうと想像します.どの単語が -er で,どの単語が -ar なのかは,昨日の記事 ([2021-02-05-1]) でも示唆したように,歴史的に共時的にも完全には説明できず,言ってみればテキトーなのです.
「辞書を引いて正しい綴字を確認しなさい」と言われれば確かに身も蓋もないわけですし,私も英語教員のはしくれとして,おいそれとスペルミスについて寛容主義を貫くことは難しいと自認してはいるのですが,ここでは誰もが lager を lagar と間違え得る「理由」があるということを述べたいだけです.-er, -or, -ar の間の選択には緩い傾向はあるにせよ完全な規則はありませんし,発音もすべて /ə(r)/ で区別されないのですから.
さて,英語は世界の lingua_franca でもありますが,日本においては義務教育で学習すべき言語であるとはいえ,あくまでよそ者の「外国語」という地位にあることも事実です.その点では,日本語の例えば漢字間違いに比べれば,英語のスペルミスは国内では許され得るという意見もあるかもしれません.この「日本語の例えば漢字間違いに比べれば,英語のスペルミスは国内では許され得る」という寛容度の序列が現にあるのか,あるとすれば,それはなぜなのか,というのが私の次なる疑問です.これは,日本で認識されている英語と世界における英語がどのような関係にあるのかという問いにもつながってきます.サッポロビールが国内で lagar の綴字のまま売り出すことに踏み切ったということは,何を意味するのかということです.日本における英語の位置づけ,世界における英語の位置づけを改めて考えてみたいと思います.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow