hellog〜英語史ブログ

#3722. 音韻の有標性[markedness][phonology][typology]

2019-07-07

 ある音韻が有標 (marked) か無標 (unmarked) かを決定する要因の問題,すなわち有標性 (markedness) を巡る指標の問題については,音韻論でも様々な議論がなされてきた.一般的に用いられている指標は,以下のものである(菅原,p. 136).

有標無標
不自然,複雑,特異,予測不能自然,単純,一般的,予測可能
少数の文法体系でしか許容されない多くの文法体系で許容される
獲得時期が遅い獲得時期が早い
言語障害で早期に失われる言語障害でも失われにくい
無標なものの存在を示唆する有標なものによって存在を示唆される
調音が難しい調音が容易
知覚的により目立つ知覚的に目立たない


 表の5番目の「無標なものの存在を示唆する」「有標なものによって存在を示唆される」がやや理解しにくいかもしれないので解説しておく.たとえば音節型に関して様々な言語から事例を集めると,母音だけの音節 (V) と,子音と母音からなる音節 (CV) とでは,前者が後者よりも有標であることがわかる.というのは,ほとんどの言語において V があれば必ず CV もあるからだ.しかし,逆は必ずしも真ならずであり,CV があるからといって V もあるとは限らない.換言すれば,V の存在は CV の存在を示唆するが,CV の存在は V の存在を必ずしも示唆しないということだ.このような関係は含意的普遍性 (implicational universal) と呼ばれる.
 言語における有標性の問題については,「#550. markedness」 ([2010-10-29-1]),「#551. 有標・無標と不規則・規則」 ([2010-10-30-1]) でも扱ったので,そちらも参照.

 ・ 菅原 真理子 「第6章 最適整理論」菅原 真理子(編)『音韻論』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2014年.133--57頁.

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