hellog〜英語史ブログ

#3653. Ebonics 論争[aave][sociolinguistics][blend][language_or_dialect]

2019-04-28

 「Ebonics 論争」とは,1996年にカリフォルニア州, Oakland の教育委員会の決議に端を発する,黒人英語の位置づけを巡る論争である.この事件で黒人英語を指す Ebonics という用語が一躍有名となったが,言語学では黒人英語のことを AAVE (= African American Vernacular English) と呼ぶことが多い(aave の各記事を参照).ちなみに,Ebonicsebony (黒檀) と phonics (音声)の混成語 (blend) とされる.
 1996年12月18日,カリフォルニア州のオークランド教育委員会が,教室で Ebonics を認知し,保持し,使用することを決定した.黒人の子供たちが最終的に標準英語を流ちょうに使いこなせるようになるためには,教育上,母語である Ebonics の介在が欠かせないという判断からだ.委員会はそこで Ebonics は英語と「遺伝的関係にある」が,英語とは異なる言語であると決議したのである.この決議は1997年1月7日にアメリカ言語協会の満場一致の支持を得た.しかし,注意すべきは,同協会が Ebonics と標準英語との「遺伝的な関係」について,何らかの専門的な見解を述べたわけではないことだ.後に,専門家集団による非専門的な判断と批判を浴びることになった.
 一方,この教育委員会の決議には方々から強い反対意見も出された.同じ1997年の1月に,アメリカ上院の小委員会の公聴会では,黒人からも白人からも批判の声があがった.その後の騒乱により,先の教育委員会は1997年4月の提案書から Ebonics という用語を削除することを余儀なくされたほどである.
 2つの言語変種が,2つの異なる言語なのか,あるいは1つの言語の異なる方言にすぎないのか.language_or_dialect という社会言語学の古くからの問題が,現実の社会問題となった好例として銘記すべきだろう.
 以上,Wardhaugh (371) を参照して執筆した.Wardhaugh からは,関連する文献も複数たどれる.

 ・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.

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