Oxford Dictionaries が毎年公表している Word of the Year によると,2016年の「今年の単語」は形容詞 post-truth である.定義は,"relating to or denoting circumstances in which objective facts are less influential in shaping public opinion than appeals to emotion and personal belief" とある.詳しい解説は Word of the Year 2016 is... を参照されたい.
この語は1992年に初出しているが,当時は文字通りの「真実が知られた後の」の語義で使われていた.今回の「真実が無関係となった時代の」という語義での使用が現われてきたのは,もっと最近,おそらく10年くらいのものではないか.いずれにせよ,この語が急激な広がりを示し始めたのは,つい最近,今年の5月以降であるという.典型的な用例は post-truth politics である.背景には,明らかにイギリスのEU離脱やアメリカの大統領選挙がある.この語が広く受け入れられた理由として,主にメディアやブログで多用されていることから,情報源としてのソーシャルメディアの台頭が挙げられるだろう.また,政治的には,既得権層が提示する事実に対する人々の不信があるとも評される.すぐれて時事的な語である.
英語史的には,post- というラテン語に由来する接頭辞による語形成が英語にすっかり定着したことを物語る例として興味深い.post- という接頭辞自体は近代英語期からあるが,純粋に「?の(時間的に)後の」という語義から,政治的な意味合いをもつ「?が無関係となった後の(時代)」という語義で用いられ,様々な語形成がなされるようになったのは,20世紀半ばからのことである.関連して,「#560. 接頭辞 post-」 ([2010-11-08-1]),「#561. 接頭辞 post- (2)」 ([2010-11-09-1]) を参照.
さて,post-truth のほかにノミネートされた語については Word of the Year 2016: other words on the shortlist に説明があるが,一通り挙げてみると,hygge, n., Brexiteer, Latinx, n. and adj., coulrophobia, n., adulting, chatbot, glass cliff, n., alt-right, n., woke, adj. である.
Oxford Dictionaries の "Word of the Year" はどのように選択され,決定されるのだろうか.Word of the Year: FAQ によると,その手順としては,Oxford Dictionaries のチームが,毎月,様々な媒体から編纂された1億5千万語ほどの Oxford English Corpus をもとにして頻度調査などを行ない,候補語をいくつか挙げた上で,ソーシャルメディアやブログなどにより一般から寄せられる提案を加味しながら議論するのだという.候補語の出所は典型的にはイギリスかアメリカが中心となるが,なるべくいずれかの国に使用の偏っている語ではなく,より広くアピールする語を選択するよう配慮しているということだ.
関連して,アメリカの American Dialect Society による Word of the Year も参照.こちらについては,本ブログ内の記事として ads woy をご覧ください.
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