hellog〜英語史ブログ

#2427. 未解読文字[grammatology][hieroglyph][timeline]

2015-12-19

 未解読文字の解読への夢は,人々のロマンを誘わずにいられない.Jean-François Champollion (1790--1832) によるロゼッタ石 (Rosetta stone) に記されたエジプト聖刻文字(ヒエログリフ)の解読,Sir Henry Creswicke Rawlinson (1810--95) による楔形文字の解読,Michael George Francis Ventris によるクレタ島の線文字Bの解読,西田龍雄による西夏文字の解読の過程などを読むと,一級のミステリー小説よりもなおワクワクする.現在解読作業が進んでおり,本格的な解読が時間の問題と目されているものに,マヤ文字がある.こちらの謎解きの経過にも目が離せない.
 世界中の遺跡などから発掘される遺物に記されている文字(体系)は,それが既知の文字でない限り,発見当初はすべて未解読文字として扱われる.後に,天才の出現や時の運により首尾よく解読が進んでゆくものもあれば,まったく手の出ないものもある.だが,エジプト聖刻文字や線文字Bのように「解読に成功した」文字と呼ばれてはいても,すべてが解読されているわけではなく,未解読の部分が残っているというのが普通である.未解読と既解読は,あくまで程度の問題ととらえる必要があろう.
 上記の但し書きを加えた上でも,完全に,あるいはほぼ未解読といってよい文字体系が,今なお多く存在する.ロビンソン (175) にまとめられている未解読文字一覧を再現しよう.表中の「*」の印は,学者の間で意見が一致していないことを示す.

文字の呼び名発見された場所最古とされるものの年代文字:既知/未知言語:既知/未知
原エラム文字イラン/イラク紀元前3000年頃未知未知
インダス文字パキスタン/北西インド紀元前2500年頃未知*
「疑似ヒエログリフ」ビブロス(レバノン)紀元前第2千年紀未知未知
線文字Aクレタ島紀元前18世紀一部は既知未知
ファイストスの円盤ファイストス(クレタ島)紀元前18世紀未知未知
エトルリア文字北イタリア紀元前8世紀既知一部は既知
メロエ文字メロエ(スーダン)紀元前200年頃既知一部は既知
ラモハーラ文字中央アメリカ紀元150年頃**
ロンゴロンゴイースター島紀元19世紀以前未知未知


 未解読文字には,大きく分けて (1) 言語は既知だが文字は未知(マヤ文字など),(2) 言語は未知だが文字は既知(エトルリア文字など),(3) 言語も文字も未知(インダス文字,ロンゴロンゴなど)に分けられる.いずれにせよ,最終的に記されている言語が何語であるのかが判らなければ,解読は不可能ということになる.新たな謎解きミステリーを読んでみたいが,マヤ文字を除けば,その時は簡単には訪れないだろう.

 ・ ロビンソン,アンドルー(著),片山 陽子(訳) 『文字の起源と歴史 ヒエログリフ,アルファベット,漢字』 創元社,2006年.

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