未解読文字の解読への夢は,人々のロマンを誘わずにいられない.Jean-François Champollion (1790--1832) によるロゼッタ石 (Rosetta stone) に記されたエジプト聖刻文字(ヒエログリフ)の解読,Sir Henry Creswicke Rawlinson (1810--95) による楔形文字の解読,Michael George Francis Ventris によるクレタ島の線文字Bの解読,西田龍雄による西夏文字の解読の過程などを読むと,一級のミステリー小説よりもなおワクワクする.現在解読作業が進んでおり,本格的な解読が時間の問題と目されているものに,マヤ文字がある.こちらの謎解きの経過にも目が離せない.
世界中の遺跡などから発掘される遺物に記されている文字(体系)は,それが既知の文字でない限り,発見当初はすべて未解読文字として扱われる.後に,天才の出現や時の運により首尾よく解読が進んでゆくものもあれば,まったく手の出ないものもある.だが,エジプト聖刻文字や線文字Bのように「解読に成功した」文字と呼ばれてはいても,すべてが解読されているわけではなく,未解読の部分が残っているというのが普通である.未解読と既解読は,あくまで程度の問題ととらえる必要があろう.
上記の但し書きを加えた上でも,完全に,あるいはほぼ未解読といってよい文字体系が,今なお多く存在する.ロビンソン (175) にまとめられている未解読文字一覧を再現しよう.表中の「*」の印は,学者の間で意見が一致していないことを示す.
文字の呼び名 | 発見された場所 | 最古とされるものの年代 | 文字:既知/未知 | 言語:既知/未知 |
---|---|---|---|---|
原エラム文字 | イラン/イラク | 紀元前3000年頃 | 未知 | 未知 |
インダス文字 | パキスタン/北西インド | 紀元前2500年頃 | 未知 | * |
「疑似ヒエログリフ」 | ビブロス(レバノン) | 紀元前第2千年紀 | 未知 | 未知 |
線文字A | クレタ島 | 紀元前18世紀 | 一部は既知 | 未知 |
ファイストスの円盤 | ファイストス(クレタ島) | 紀元前18世紀 | 未知 | 未知 |
エトルリア文字 | 北イタリア | 紀元前8世紀 | 既知 | 一部は既知 |
メロエ文字 | メロエ(スーダン) | 紀元前200年頃 | 既知 | 一部は既知 |
ラモハーラ文字 | 中央アメリカ | 紀元150年頃 | * | * |
ロンゴロンゴ | イースター島 | 紀元19世紀以前 | 未知 | 未知 |
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