Cheshire (115) を読んでいて,現代英語に関する記述として,会話において否定形が多く使われるという言及に遭遇した.直感的には確かにそのように思われるが,客観的な裏付けはあるのだろうかと,LGSWE に当たってみた.すると,関連する記述が pp. 159--60 に見つかった.
否定形にも様々な種類があるが,4つの使用域のそれぞれについて,コーパスを用いて "Distribution of not/n't v. other negative forms" を調査した結果が示されていた.100万語当たりの生起数を,グラフと表で示そう.
| not/n't | other negative forms |
CONV | 19500 | 2500 |
FICT | 9500 | 4000 |
NEWS | 4500 | 2000 |
ACAD | 3500 | 1500 |
会話で否定形が頻出する理由として,
LGSWE は以下を挙げている.
(1) 会話では他のレジスターよりも動詞が多い.否定は動詞と最も強く結びつくので,会話で否定が多いのは当然予想される.
(2) 会話では他のレジスターよりも節が短く,多い.その分,否定の節も多くなることは当然予想される.
(3) 会話では表現の反復が多い.否定形の反復もそれに含まれる.
(4) 多重否定や付加疑問など,話しことばに典型的な否定構文というものがある.
(5)
not と強く共起する動詞があり,それらはとりわけ会話において頻度が高い.例えば,
forget,
know,
mind,
remember,
think,
want,
worry などの心理動詞など.
(6) 会話には相手がおり,意見の一致や不一致に関わる表現が多くなる.会話では,
not のみならず
no や他の否定辞も頻出する.
CONV の次に FICT に否定形が多いのは,おそらくフィクションにおける対話部分が貢献しているからだろう.また,(1) については,会話には全体として動詞が多く生起するという事情も関与しているだろう.
・ Cheshire, Jenny. "Double Negatives are Illogical."
Language Myths. Ed. Laurie Bauer and Peter Trudgill. London: Penguin, 1998. 113--22.
・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan.
Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
[
|
固定リンク
|
印刷用ページ
]