今年もこの時期がやってきた.American Dialect Society による流行語大賞の公表の時期だ.2009年は[2010-01-14-1]の記事で紹介したように tweet が大賞に選ばれたが,2010年は app だった.
詳しくは1月7日付けのADS による公式発表とプレスリリース (PDF)を参照されたいが,問題の語の定義は以下の通りである.
"app" --- noun, an abbreviated form of application, a software program for a computer or phone operating system
app は日本語では「アプリ」としてすでに広く認知されている.この英単語は OED では初出1985年として見出し語に採用されており,決して新しい語ではない.しかし昨年はコンピュータだけでなく iPhone, iPad などの電子端末に対応するアプリケーションの需要が激増し,app store なるオンライン店舗も目立つようになってきた.2年続けてITサービス関連の語が受賞という事実に,時代の波を感じる(「IT」というかつての流行語はすでに古いかも).
他のノミネート語や部門ごとの受賞語を眺めてみると特にアメリカの,しかししばしば世界的な世相が分かる.Wikileaks や vuvuzela の如くである.ネット関連でよく使われる動詞としての trend "to exhibit a burst of online buzz" が MOST LIKELY TO SUCCEED 部門での受賞となったのもなるほどと思わせる.
ADS では Word of the Year for 2010 と合わせて,姉妹大賞である Name of the Year for 2010 の投票も行なわれた.後者を受賞したのは,本ブログの[2010-04-20-1]の記事でも触れた,アイスランドの火山 Eyafjalljökul だった.
ADS の 新語委員会委員長の Ben Zimmer は,[2010-08-11-1]の記事で紹介した Visual Thesaurus の製作責任者でもある.
[2009-12-28-1]の記事で紹介した American Dialect Society が,2010年1月08日(金)付けで2009年の英語の流行語大賞 "word of the year" を発表した.10年間の締めくくりの年でもあったので,同時に "word of the decade" も発表された.詳しくは,American Dialect Society,あるいは直接プレスリリースがこちらのPDFで閲覧可能である.
結果からいえば,"2009 Word of the Year" が tweet,"Word of the Decade" が google である.近年のウェブ・コミュニケーション技術の台頭を物語る結果である.
"2009 Word of the Year" の tweet は,"(noun) a short message sent via the Twitter.com service, and (verb) the act of sending such a message" と定義される.Twitter は Twitter.com が提供するオンライン「つぶやき」サービスで,昨年から今年にかけて日本でも大ブレークしている.電子メールとチャットの中間程度の「緩い」コミュニケーションを可能としたことが売りで,iPhone などの携帯端末からオンラインに向かって日々つぶやく人が増加した.
"Word of the Decade" の google は,"a generic form of 'Google,' meaning 'to search the Internet' " の意味で,確かに動詞として一般化した観がある.ちなみに "Word of the Decade" の次点は blog であり,やはりウェブ・コミュニケーション用語である.第三位は 9/11 だった.
これらの流行語は American Dialect Society 主催の投票によって選ばれるが,プレスリリースでは賞の開始された1990年以来の各部門の受賞語句が確認できるので,ぜひ読んでおきたい.部門としては,"MOST UNNECESSARY" 部門,"MOST OUTRAGEOUS" 部門,"MOST LIKELY TO SUCCEED" 部門の受賞語句などが,ときに笑える.
学会の主催するイベントでありながら,ユーモアの忘れられていないところが楽しい.プレスリリース中の以下のコメントにも,方針がこう謳われている.
Members in the 120-year-old organization include linguists, lexicographers, etymologists, grammarians, historians, researchers, writers, authors, editors, professors, university students, and independent scholars. In conducting the vote, they act in fun and do not pretend to be officially inducting words into the English language. Instead they are highlighting that language change is normal, ongoing, and entertaining. (1)
昨日の記事[2010-01-14-1]で紹介したように,American Dialect Society による2009年の英語流行語大賞のプレスリリースに,1990年以降の受賞語句がまとめて掲載されている.見やすいように,大賞受賞語句を一覧にしてみた.英語ならずとも,確かに時代を感じるなあ.
Year | Word of the Year | Word of the Decade | Word of the Century | Word of the Millennium |
---|---|---|---|---|
2009 | ||||
2008 | bailout | |||
2007 | subprime | |||
2006 | to be plutoed, to pluto | |||
2005 | truthiness | |||
2004 | red / blue / purple states | |||
2003 | metrosexual | |||
2002 | weapons of mass destruction or WMD | |||
2001 | 9-11, 9/11 or September 11 | |||
2000 | chad | web | jazz | she |
1999 | Y2K | |||
1998 | e- | |||
1997 | millennium bug, Y2K bug or Y2K problem | |||
1996 | mom (as in soccer mom) | |||
1995 | (tie) World Wide Web and newt | |||
1994 | (tie) cyber and morph | |||
1993 | information superhighway | |||
1992 | Not! | |||
1991 | mother of all | |||
1990 | bushlips |
10年遅れの話題だが,年末ということで思い出したのでメモ.American Dialect Society では毎年,協会誌 American Speech にて英語の流行語大賞が発表されている.2000年には豪華なことに "1999 words of the year", "words of the decade", "words of the century", "words of the millennium" が一気に公表された.
その年の流行語大賞がその一年の社会の変化を振り返るのにうってつけであるのと同様に,10年,100年,1000年というスパンでの「流行語」を顧みることは,社会の歴史を振り返るのにうってつけである.以下は,大賞にノミネートされた語句である.受賞語句には * を付してある.
・Words of the Decade
e-
ethnic cleansing
* Web
Franken --- Genetically modified, as in Frankenfood
senior moment
way --- very
・Words of the Century
teenager
* jazz
T-shirt
modern
DNA
media
acronym
teddy bear
World War
cool
melting pot
・Words of the Millennium
science
freedom
news
justice
truth
nature
history
human
book
language
go
the
government
OK
* she
millennium の単位になると,ノミネートの基準も分かるような分からないような,である.語彙史的には,特に go, the, そして受賞した she が気になるところである.いずれもゲルマン系の超基本語であり,この形態・機能に落ち着くまでにある程度の時間のかかった語である.確かに歴史を背負った語といってよい.
ちなみに "Words of the Millennium" にノミネートされた15語のうち,間違いなく英語の本来語といえるものは freedom, truth, book, go, the の5語のみであり,他は借用語である.このことは,1500年余の英語の語彙史を象徴しているように思える.
・American Speech 75.3 (2000): 323--24 (in "Among the New Words").