hellog〜英語史ブログ

#107. 逆成接辞変形[back_formation][affixation][metanalysis][word_formation]

2009-08-12

 昨日の記事[2009-08-11-1]で,「エロ」は「エロチック」からの逆成 ( back-formation ) の例かもしれないと述べた.逆成とは,ある語の語尾を接尾辞や屈折語尾と混同し,それを除去することで語を形成する作用である.多くの場合,異分析 ( metanalysis ) と類推 ( analogy ) も同時に起こっており,過程を説明しようとすると複雑なのだが,例を見ればすぐに理解できるし,実際に頻繁に起こっている語形成 ( word formation ) である.
 [2009-08-11-1]では editor > edit の例をみたが,今日は説明に burglar > burgle を取りあげてみる.burglar 「強盗」は,ラテン語に語源をもつが,直接的にはアングロ・フレンチ ( Anglo-French ) から burgler という形で16世紀に英語に借用された.その後19世紀に,語尾の -ar は行為者を示す語尾であると異分析され,それを差し引けば動詞ができるはずだとの発想から burgle 「強盗する」という動詞が逆成された.もっとも,-ar が行為者の接尾辞であるとした部分は,語源的には必ずしも誤解ではないかもしれない.直前の l も含め,語源的にはよく分からない語尾なのである.だが,それを全体から差し引くという発想が革新的だった.この発想の背後には,動詞 + -ar として行為者名詞が派生される例が英語に存在するという事実に基づく類推 ( analogy ) の作用があったと考えてよい.ex. beggar, liar, pedlar.
 比例式で表現すると次のようになる.

 lie : liar = X : burglar  ゆえに
 X = burgle


 lie > liar というごく自然な順序の派生は接辞変形 ( affixation ) と呼ぶが,back-formation はその反転の作用といっていいだろう.
 ちなみに,back-formation という用語自体は OED の編集主幹 J. A. H. Murray の造語で,上記の burgle の語源説明に用いたのが最初である(1889年).ただし,back-formation から逆成されてしかるべき back-form という動詞は,いまだ OED にも登録されていない・・・.

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#108. 逆成の例をもっと[back_formation][agentive_suffix]

2009-08-13

 [2009-08-11-1], [2009-08-12-1]逆成 ( back-formation ) の話題を取りあげた.逆成のタイプは数種類あるが,editorburglar などのように,行為者接辞 -er, -ar, -or が差し引かれるタイプをいくつか挙げてみよう.語源辞典より初出年も添えておく.

動詞初出年行為者名詞初出年備考
baby-sit1947baby-sitter1937 
beg?a1200beggar?a1200 
bulldoze1876bulldozer1876 
burgle1872burglar1541 
commute1889commuter1865「定期券で通勤する」の意で
edit1793editor1712「編集する」の意で
peddle1532pedlarc1378 
scavengea1644scavenger1530 
sight-see1835sight-seeing1824 
swindle1782swindler1774 
type-write1887type-writer1868 


 begbulldoze などは,初出年は対応する行為者名詞と同じである.このような場合,どちらが先に立つかは,同じ年でも日付が異なるとか,文脈から判断されるとかいうことなのだろうが,そもそも文献に現れるタイミングと実際に口語で使われはじめるタイミングは一致していないことも多いので,初出年は常に参考として読むべきである.ちなみに,初出年に現れる省略記号の "a" は ante 「?より以前」を,"c" は circa 「?頃」を表す.
 日本語にも逆成の例はいろいろとあるはずである.「狂い咲き」→「狂い咲く」,「待ち伏せ」→「待ち伏せる」など.他に何があるだろうか?

Referrer (Inside): [2010-09-08-1]

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