研究内容

はじめに

 

私達は脳を通して外の世界と自己の世界を繋いで生きています。

しかし脳は単純にそれらを繋いでいる訳ではなく、外部環境や自身の精神状態などにより非常に多様な変化を見せ、それが私達の物の感じ方や考えなどに大きな影響を及ぼします。

その高度で豊かな脳の機能発現の謎の解明に向け、私達は脳組織、そして脳細胞の中での情報の流れと、外部環境や精神状態によるその制御機構の解明に向けた研究を行っています。

 

 

このように複雑な脳ですが、細かく分けて行くと脳には無数の細胞があり、それらは神経細胞とグリア細胞に大きく分かれます。

   

                                  

 

これらの細胞同士が非常に小さな化学情報伝達物質をやり取りし、この情報伝達が脳の情報処理を支え、ひいては脳の高次機能や精神機能を支えていると考えられています。

 

                                  

 

そして、これらの伝達に変化が生じると、「通常」の脳・精神機能の変化、或いは疾患へと繋がり、様々な薬はその変化を元に戻すことで効果を示すとされています。

しかし、脳組織は非常に込み入って繊細な組織であること、そして伝達物質などが非常に小さな物質であることなどから、伝達の様相などについてはまだ多くのものが解明されていないのが現状です。私たちは、このように観測が困難な現象を新たな技術の開発と応用により見て理解する研究を、特に神経調節物質とグリア細胞に着目して進めています。

 

1)新たなイメージング技術の開発と応用による脳細胞・組織の生理・          病態生理・薬理学研究

 

脳機能の理解のためには、まずその機能を観測する事が必要となります。

ここで、多数の神経細胞やグリア細胞から構成される組織としての脳機能の理解には、これらのネットワークが保存された3次元的な組織を広い視野で観測する事が必要となります。

一方、神経細胞、グリア細胞共に個々の細胞は非常に複雑な構造を持ち、その構造が機能発現に重要な役割を果たしているため、これらの微細構造を観測する事も重要となります。

更にはミリ秒単位で起こる神経活動の記録から年単位に及ぶ形態学的な変化まで、観測現象の時間域も非常に広く、これらをカバーする観測のためには、組織の深部において広い時空間域にわたり非侵襲的に対象を観測する手段が必要となります。

2光子顕微鏡はこれらの点において非常に優れた技術であり、実際、2光子顕微鏡の導入により我々の脳に対する知識は飛躍的な進歩を遂げました。しかし実は、2光子顕微鏡を含む現代の最先端の技術をもってしても、まだ見えていない、測れていないものは数多くあります。例えば、上の図にある伝達物質が実際に脳の中でどのように伝達し、それが変化して病気になり、薬がどのようにしてそれを戻すのかについては、実際には見えていないのが現状です。

私達はこの多光子顕微鏡を中心として新たな技術を開発、応用する事で、これまで誰も見る事、測る事が出来なかった脳内の現象を可視化し、脳細胞・組織の生理機能解明に向けた研究を行ってきました。現在はこの最先端のイメージング技術を駆使し、脳細胞・組織内での情報の流れを可視化し、その内外の環境に対する変化を観測する事で脳機能の謎に迫る研究を進めています。

 

                         

 新しい標識を用いた伝達物質のイメージング

神経伝達物質はサイズが非常に小さく、これまで生命科学研究で用いられてきた蛍光色素を付けて蛍光イメージングをすることができません。それが原因で、今も神経伝達物質のほとんどはそのまま可視化して、伝達の様子を知ることができていない状況です。そこで私たちは、非常に小さい標識(アルキン・タグ)を付けるという新たな方法で伝達物質などの小さな、しかし生命現象にとって重要な分子を可視化する研究を行っています。

 光第二高調波発生(Second Harmonic Generation, SHG)イメージング

SHGは光の吸収による物質の励起を伴わない2光子現象であり、その発生には対象分子の特殊な存在条件が必要となります。よってこれを用いることにより、2光子励起による蛍光観察とは異なる現象の可視化が可能となります。例えば、コラーゲン繊維をSHGによりラベルせずに観測する事ができるため、癌の組織や血管などの構造を可視化する事ができます。

また、色素を用いて形質膜からSHGシグナルを観測する事により、我々はこれまで計測が困難であったスパインや軸索といった神経細胞の細部におけるミリ秒単位の電位情報の定量的な計測にも成功しました。更に、SHGイメージングに特化したSHG専用色素の開発と応用に世界で初めて成功しました。このような技術の応用により、蛍光観測では得られなかった新たな知見がもたらされるものと期待されます。

なお、SHGの研究はオリンパス株式会社との共同研究として進めております。

 

我々の開発した世界初となるSHG専用色素がフナコシ株式会社から販売され、ご紹介頂いております。

 

フナコシ株式会社からインタビューを受け、その中でAp3の紹介もしています

リンクはこちらから

SHG専用色素の開発と応用に関し、プレスリリースを行いました。

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この研究に関し、顕微鏡のアプリケーション・ノートとしてご紹介頂きました。

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SHGの研究をBiogarageにてご紹介頂きました。

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2)神経調節物質・グリア細胞に着目した脳の情報処理制御機構の解明

 

脳というと神経細胞が主に着目されますが、脳組織には神経細胞と同じくらいの数の非神経細胞が存在し、その主要なものがグリア細胞です。アストロサイトはグリア細胞の一種で、かつては神経細胞の活動を支える消極的な細胞と考えられてきましたが、実は非常に活発で重要な細胞であることが分かってきました。神経細胞がネットワークを作るようにアストロサイトも脳の中で結びついているのですが、神経細胞とは異なる様式で、アナログで巨大なネットワークを作っています。

                            

そしてアストロサイトは神経細胞がやり取りする化学情報伝達物質に反応し、更に放出したりすることで、やはり情報伝達を行っているということが分かりました。更に私たちのものを含む最近の研究から、これまで神経細胞に作用することで効果を発揮すると考えられてきた様々な物質や薬が、アストロサイトにも作用し、それが重要な役割を果たしているということも分かってきました。特に、精神機能との関係が強く示唆されているノルアドレナリンなどの神経調節物質群が、アストロサイトの機能を制御する非常に重要な物質であることが分かり、脳の機能や薬の作用などを考えるとき、アストロサイトは神経細胞と同じくらいに重要な細胞であることが分かってきました。

                                            

 

しかし、アストロサイトに関する研究は神経細胞に比べて圧倒的に少なく、遅れています。そこで私たちはアストロサイトに着目して脳の様々な現象を理解するための研究を進めています。