顕微鏡紹介 

非線形光学顕微鏡について

 

非線形光学現象と呼ばれる現象には多くの種類があり、それを利用する非線形光学顕微鏡にもそれに応じた種類があります。(下図) ここではその中でも私たちのグループで医学・生命科学研究への応用を進めている顕微鏡技術についてご紹介します。

 

2光子励起顕微鏡

 

光るクラゲから同定された緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein, GFP)や蛍光色素などは、光のエネルギーを吸収して励起され、それが再度通常の基底状態に戻る際、吸収した光より長波長にシフトした(エネルギーの低い)光を出します。これが蛍光です。通常この蛍光は青色で励起して緑色を出すなど、目に見える強い光で起こします。しかし、これらの光は組織では散乱され、組織の中まで届くことができず、組織内部の現象の可視化は困難です。一方、長波長の近赤外光などは組織透過性が高く、組織の内部まで届きますが、エネルギーが弱いために通常の蛍光分子の励起ができません。しかし、近赤外光の強さ(光の密度)を非常に強くすると、二つの光(光子)が同時に分子にぶつかりエネルギーを与える、2光子励起、という現象が起こり、それぞれが半分のエネルギー(2倍の波長)の光で励起を起こし、組織の内部の現象を見ることができるようになります。これを顕微鏡下で実現するのが2光子励起顕微鏡です。ここで、この現象には非常に高い光子密度が要求されるため、顕微鏡においてレンズで集光する場合、その焦点スポットの非常に限られた空間のみでこの2光子励起が起こります。これは、焦点以外の部位でも多くの励起を起こす、通常の(1光子)励起と大きく異なるものです。ですので、2光子励起では組織深部において、3次元的に非常に限られた部位での蛍光観察、つまり空間分解能の高い観察が可能となります。更に、焦点以外での不要な光の影響が少ないので、光による色素の褪色や組織へのダメージといった、通常の顕微鏡で起こる問題を回避することもできます。つまり、2光子励起顕微鏡では、組織深部の現象を3次元的に高い空間分解能で長期間にわたり侵襲性を抑えて観察することが可能となります。 私たちはこのような2光子励起顕微鏡を用い、脳組織内における分子の動きや生理・疾患条件下における細胞の挙動を研究しています。

関連出版論文

Nuriya et al. (2013) J. Neurosci. [PubMed]

Nuriya et al. (2013) Cereb. Cortex [PubMed]

Gondo, Shinotsuka, Morita et al. (2014) JBC. [PubMed]

Shinotsuka et al. (2014) BBRC [PubMed]

Nuriya, Takeuchi et al. (2017) BBRC [PubMed]

 

  

SHG顕微鏡

 

SHG(Second Harmonic Generation:光第二高調波発生)は入射した二つの光子が一つの光子へと変換される現象でグリーンレーザーポインターにも使われている一般的な現象です。生体では、分子が規則正しく配向したところで発生し、その分子群の場所や変化を捉えることができます。私たちのグループでは特に水と油の界面で分子が規則正しく配向することを利用し、細胞膜の選択的な可視化やそれを利用した生体膜の変化(膜電位など)を計測することを試みています。また、SHGは蛍光と全く異なる波長をもつため、蛍光と同時に取得することができ、これを利用して細胞の様々な活動を同時に捉えるマルチモダル多光子顕微鏡観測を実現しています。

関連出版論文

Nuriya et al. (2006) PNAS [PubMed]

Nuriya et al. (2010) JBO [PubMed]

Nuriya et al. (2016) Nat. Commun. [PubMed]

Mizuguchi et al. (2018) iScience [PubMed]

 

 

CARS顕微鏡

 

CARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)は分子内官能基の特異的な分子振動により光の波長がずれて散乱するラマン散乱を増強するもので、これを利用したCARS顕微鏡では生きた細胞の特定の分子振動をを高い時空間分解能で可視化することができます。これを利用し、私たちのグループでは、そのままでは観ることができない水などの分子を可視化し、その動きを捉えるという試みを行っています。また、SHG同様、CARSも他の光学現象と分けて検出することができるため、細胞の種々の局面を同時に可視化するマルチモダル多光子顕微鏡観測が実現しています。

関連出版論文

Nuriya et al. (2019) JPCA[PubMed]

Mizuguchi et al. (2020) Analytical Chemistry [PubMed]

 

 

新しい顕微鏡

 

 

現在開発中です。これまで見えなかったものの可視化を実現する顕微鏡の開発を進めています。