常々考えており,学生たちともよく議論していることなのだが,「他動詞」 (transitive verb) と「自動詞」 (intransitive verb) という用語は紛らわしい.
ある動詞のことを「他動詞」か「自動詞」かに分類するよりも,その動詞には「他動詞的用法」 (transitive use) があるとか,「自動詞的用法」 (intransitive use) があるとか,両用法があるとか,そのような用語使いのほうが分かりやすいのではないかと思うからだ.
確かに,通常は自動詞的用法しかもたない exist, fall, matter のような動詞を「自動詞」と呼んでおくのは一見すると分かりやすいし,同様に普通は他動詞的用法しかもたない greet, have, visit のような動詞を「他動詞」と称するのは問題ないように思われる.しかし,eat, write, move など大多数の動詞が実は両用法をもつのであり,これらの動詞を個々の具体的な文脈における用法に注目せず,所属タイプとして「他動詞」や「自動詞」と分類してしまうのは適切ではない.eat は基本的には「他動詞」だが,場合によっては目的語が省略され「自動詞」ともなり得る,というような言い方は混乱のもとである.
似たようなことは「可算名詞」 (countable noun) や「不可算名詞」 (uncountable noun or mass noun) についても言えるし,「限定形容詞」 (attributive adjective) や「叙述形容詞」 (predicative adjective) についても言えるだろう.これらの用語は,動詞,名詞,形容詞のタイプとしての「種別」を表わす用語ではなく,具体的に実現されるトークンとしての「用法」を表わす用語と解釈しておくのが妥当に思われる.
タイプ種別として A か B かに厳密にカテゴライズできないのは,言語(学用語)の常である.およそA的だがB的な要素もあるとか,状況に応じてA的にもB的にもなり得るとか,そのようなケースのほうが多い.言語事象も言語学用語もたいていプロトタイプ (prototype) の観点からみておくのがよい.
このような問題を考察したい方は,ぜひ Taylor をどうぞ.さらにこちらも「#1258. なぜ「他動詞」が "transitive verb" なのか」 ([2012-10-06-1]) .
・ Taylor, John R. Linguistic Categorization. 3rd ed. Oxford: OUP, 2003.
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