昨日,「英語史導入企画2021」の一環として学部生よりコンテンツ「フォトジェニックなスイーツと photogenic なモデル」がアップされた.日常的な話題で,言語接触とその効果をリアルタイムで眺めているかのような読後感を得られる内容となっている.
英単語 photogenic の意味や語形成については上記コンテンツに詳しいが,3つの学習者英英辞書の定義を示せば次のようになる.
・ OALD8: looking attractive in photographs
・ LDOCE5: always looking attractive in photographs
・ CALD3: having a face that looks attractive in photographs
辞書では「被写体」の限定はなされていない.人でも物でもよいはずだ.しかし,挙げられている例文はすべて人(の容姿)を対象としている.コーパスで検索された多数の例文を眺めてみても,物(特に風景)を対象とした例はあるにはあるが,大多数の用例が写真うつりの良い「人」に関するものである.いくつか典型例を挙げよう.
・ She is very photogenic but fortunately she knows that being photogenic is not enough in this business.
・ There were many pictures of the family as well, they must be a photogenic kind of family because there was so many family shots of them all dressed up.
・ Sarah's eye for a photogenic face has made her fortune.
ところが,昨今日本語に取り込まれてカタカナ語となっている「フォトジェニック」は,インスタグラムの「インスタ映え」の類義語であるかのように多用されている.その際の被写体は,今度は人に用いられることは稀で,圧倒的に物を対象としているのがおもしろい.
photogenic と「フォトジェニック」は,(当たり前ながらも)語源および「写真映えする」という基本的語義を共有しているものの,形容詞として記述・描写の対象としているものが典型的に前者では人,後者では物であるという点で,用法の相違を生み出している.最新の英日語に関する "false friends" (Fr. "faux amis") の例,あるいは少なくともその兆しを見せてくれている例といえないだろうか.
ところで,-genic を始め,ラテン語 gēns (clan, race) と同根であり,かつ英語に入ってきた単語は多いが,gentle, genteel, jauntry, ,そして今回の -genic など語義がポジティヴな(に転じた)ものが多いのは偶然だろうか.
なお,「テレビ映りが良い」は telegenic, 「ラジオ聞こえ(?)が良い」は radiogenic というようで,-genic'' がメディア名に後続する接尾辞 (suffix) として存在感を示し始めている様子が窺える.新語の語形成は目が離せない.
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