品詞 (parts of speech) のなかでも,名詞 (noun) は最も基本的なものの1つである.とりあえず「モノの名前」といっておけばおよそ理解できそうな,自然な品詞のように思われる.実際にはそう簡単でもないのだが,細かい前提を抜きにしてとりあえず語り始められる語類にはちがいない.
名詞を下位分類する方法は立場によっていろいろあるだろうが,Crystal (208) を参考にすると,主として意味論的,副として統語論的な観点から以下のように分類される.
┌── Proper
│ ┌── Concrete
Nouns ──┤ ┌── Count ───┤
│ │ └── Abstract
└── Common ──┤
│ ┌── Concrete
└── Noncount ──┤
(Mass) └── Abstract
名詞はまず大きく固有名詞 (proper noun) と普通名詞 (common noun) に分かれる.前者には,文のなかで単独で立つことができる,通常不定冠詞を伴ったり複数形になったりしない,通常定冠詞を伴わない,表記上大文字で始める慣習がある等の特徴がある.
後者の普通名詞は,さらに可算名詞 (count noun) と不可算名詞 (noncount noun) に区分される.前者には,単独で立つことができない,不定冠詞が付き得る,複数形になり得る等の特徴があり,後者には単独で立つことができる,不定冠詞が付かない,複数形にならない等の相反する特徴がある.後者は質量名詞 (mass noun) と呼ばれることもある.
可算名詞と不可算名詞は,それぞれ意味や指示対象の観点から,具体的なものと抽象的なものに区分される.
book,
car,
elephant は具体的な可算名詞だが,
difficulty,
idea,
certainty は抽象的な可算名詞となり得る.ただし,不可算名詞については,具体・抽象の区別は必ずしも明瞭ではない.例えば
structure,
version,
music などは,文脈によっていずれにも解釈できるからだ (Crystal 209) .
上記の下位区分は名詞の種類を示すものだが,それぞれ統語的には多かれ少なかれ独自の特徴を示すという点では,理論的に別々の品詞と考えることも不可能ではない.
The Athens of the North (=
Edinburgh) とか
many Smiths とか
a Mary Jones などというとき,固有名詞が普通名詞として用いられているわけだが,これを固有名詞の普通名詞的用法と解するのではなく,普通名詞へ品詞転換 (
conversion) したものとみなすこともできるのだ.
・ Crystal, David.
The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 210.
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