昨日の記事「3562. may 祈願文の生産性」 ([2019-01-27-1]) を含め起源の may については may の各記事で取り上げてきたが,歴史的には法助動詞を用いた祈願文として,mote (「#2256. 祈願を表わす may の初例」 ([2015-07-01-1]) を参照)や might (「#3423. 祈願の might (1)」 ([2018-09-10-1]),「#3424. 祈願の might (2)」 ([2018-09-11-1]) を参照)の例がある(ただし,後者は may と異なり非現実的祈願).
もう1つ歴史的にも非常に稀なのだが,mote の過去形に相当する most(e (形態的に現代英語の must に連なる)を用いた祈願文が存在した.Visser (1800) に,少数の例が挙げられている.
・ 13.. Curs. Mundi 25387, "Amen," þat es "Sua most it be." (But cf. 25294, þi nam mot halud be).
・ c1425 Chester Pageant of Abraham, Melchisedec & Isaac, Everym. Libr. p. 41, 12, Abraham, welcome must thou be . . . Blessed must thou be.
・ c1450 Chester Pl., Noah's Flood (in: Pollard, Eng. Mir. Pl.) 284, Ah lord honoured most thou be!
・ c1475 Siege of Rouen (ed. Gairdner; Camb. Soc.) p. 25, Hym wanted no thynge þat a prynce shulde have: Almyghty God moste [v.r. mote] hym save!
Visser は,祈願の most(e の例があまりに少ないことから,写字生が mote を書き誤ったものではないかとも示唆しており,また2人称単数主語の場合について most は古英語の現在形を保持しているものではないかとも述べている.真正な祈願の must が存在していたのか,怪しいというわけだ.確かに少ない例文を眺めていると,mote との混同という気がしないでもない.
・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.
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