tip (心付け)の語源は不詳である.シップリー (628) は,次のように記述している.
tip [típ] 軽打,先端,チップ
この語には意味がいくつかあり,その語源も曖昧な点が多いが,「軽打」という意味では tap (軽くたたく),「先端」という意味では top (頂き)に関係があるものと思われる.
良いサービスに対して支払われるお金の「チップ」は,他の言語ではより特定的であり,例えばフランス語 pourboire (チップ)は飲物に対するものである.英語の tip は,ロンドンのコーヒーハウスでの18世紀初めの習慣からできたという説がある.その店には箱が置いてあって,急いでいる人はすぐさま注意を引くために,そこに少額硬貨を落とすようになっており,箱には to Insure Promptness (迅速さを確保するために)というラベルが貼られていた.そのイニシャルを取って T.I.P. となったという.
ユーカーズ (140) も,コーヒーハウスに引っかけた同趣旨の語源説を紹介している.
「チップ」という言葉とその習慣も,コーヒー・ハウスで始まったとされる.コーヒー・ハウスには,真鍮の箱が置かれ,ウェイターのためにコインを入れるようになっていた.その箱には「迅速さをお約束するために To Insure Promptness」と書かれていて,この頭文字をとり「TIP」という語ができたといわれる.
しかし,この語源説は怪しいようで,OED をはじめとした権威ある主要な語源記述では,この説は触れられてすらいない.語源の世界も,専門家向けと一般向けのレファレンスでは,そもそも交わっていないところがあり,語源学の難しさを感じさせる.
・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.
・ ウィリアム H. ユーカーズ 著,山内 秀文 訳 『ALL ABOUT COFFEE コーヒーのすべて』 KADOKAWA,2017年.
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