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#2933. 紙の歴史年表[timeline][history][medium][writing]

2017-05-08

 カーランスキーの著わした『紙の世界史』は,書写材料としての紙の歴史をたどりながら,結果として文字と文字文化の歴史を同時に記述している.書写材料については,「#2465. 書写材料としての紙の歴史と特性」 ([2016-01-26-1]),「#2456. 書写材料と書写道具 (1)」 ([2016-01-17-1]),「#2457. 書写材料と書写道具 (2)」 ([2016-01-18-1]) などで扱ってきたが,今回はカーランスキーの巻末より紙の歴史年表 (466--74) を掲げたい.一覧するとテクノロジーが社会を動かしてきたことがよく分かるが,カーランスキーの言葉を借りれば「社会がテクノロジーを生み出してきた」というべきなのだろう.

紀元前38000年北スペインのエル・カスティリョ洞窟に残る赤い点が人間による最古の描画とされている
紀元前3500年メソポタミアの石灰岩に最古の文字が刻まれる
紀元前3300年バビロニア南部(現イラク)のウルクで粘土板に文字が刻まれる.楔形文字の始まり
紀元前3000年年代が特定されている最古のパピルス.文字跡のない巻物がカイロ近郊サッカラの墳墓から発掘
紀元前3000年エジプトのヒエログリフ象形文字(神聖文字)の始まり
紀元前2500年インダス川流域ではじめて文字が書かれる
紀元前2400年現存する最古のエジプト語の文書
紀元前2200年インダス川流域で銅片や陶片に文字が彫られる
紀元前2100年年代が特定されている最古のタパ.断片がペルーで出土
紀元前1850年年代が特定されている最古の文献.獣皮に書かれたエジプト語の巻物
紀元前18世紀クレタで書記体系が生まれる
紀元前1400年中国で獣骨に文字が書かれる
紀元前1300年中国で青銅,翡翠,亀甲に文字が書かれる
紀元前1200年漢字が発達する
紀元前1100年エジプト人がフェニキア人にパピルスを輸出しはじめる
紀元前1000年フェニキア語のアルファベットが生まれる
紀元前600年メキシコでサポテク/ミステク文字が生まれる
紀元前600年中国とギリシアで木板に帳簿が書かれる
紀元前5世紀中国人が帛を書写に使う
紀元前400年イオニア式アルファベットがギリシアでの標準語となる
紀元前400年中国で油煙から墨が発明される
紀元前3世紀アレクサンドリアに図書館が建造される
紀元前255年中国で封印に関するはじめての記述がなされる.ただし墨を用いずに粘土に押印された
紀元前252年中国の楼蘭で発見された年代のあきらかな最古の紙
紀元前250年マヤ文字が使用される
紀元前220年中国で蒙恬が発明した駱駝の毛筆が書道に使われる
紀元前206年中国の王朝,前漢の幕開け.中国では漢代に紙が開発される
紀元前63年ギリシアの地理学者ストラボンが,黒海沿岸を統治するポントス王国のミトリダテス6世の王宮に水車設備があることへの驚きを記述
紀元前31年現存する最初のオルメカ文字
紀元前30年ローマ帝国がエジプトを征服,パピルスが地中海世界に広まる
紀元後1世紀ローマで一時的な書写に蝋板が使用される
75年楔形文字で最後の日文が書かれる
105年通説では語感の宮廷に使えた宦官の蔡倫が紙を発明したとされている
2世紀スカンディナビアでルーン文字のアルファベットが生まれる
250年--300年年代がほぼ特定されている紙がトルキスタンで出土
256年中国で最初の紙に書かれた本『譬喩経』が作られる
297年最初のマヤ暦が石に彫られる
394年エジプトのヒエログリフ象形文字で最後の日文が書かれる
5世紀日本語の独自の文字体系が開発される
450年年代が特定されている棕櫚の葉に書かれた最初の手稿.中国の北西部で葉写本の断片が発掘された
476年西ローマ帝国最後の皇帝ロムルス・アウグストゥルスの廃位により古代世界が正式に幕を閉じる
500年マヤ人がアマテに文字を書きはじめる
500年--600年マヤ人が樹皮紙を発達させる
538年朝鮮半島の百済の王が紙で作られた経典と仏像を日本へ送る
610年高句麗の僧の曇徴が製紙法を日本に伝える
630年ムハンマドがメッカを征服
673年川原寺の僧侶が仏典を写しはじめ,ほどなく日本で写経が活発になる
8世紀中国で印刷が始まる
706年アラブ人が紙をメッカに持ちこむ
711年アラブ人率いるベルベル人軍がモロッコからジブラルタル海峡を越えてスペインを侵攻
712年日本文学の最古の作品『古事記』が漢文で書かれる
720年仏教の浸透とともに日本での紙の使用が大々的に広まる
751年サマルカンドで製紙が始まる
762年--66年バグダードの建設
770年日本の称徳女帝が紙を使った初の印刷物,病気平癒を願う祈祷書の百万部の作成
794年布くずを材料とする製紙場がバグダードに設けられる
800年エジプトで紙がはじめて使われる
832年イスラム教徒がシチリアを征服
848年アラビア語で紙に書かれた完全な形の本が作られる.年代が特定された書籍では最古とされている
850年『千夜一夜物語』がはじめて書き起こされたと推定される
868年現存する最古の書籍『金剛般若経』が印刷された
889年マヤ人がすべての記録に石ではなく紙を使用しはじめる
9世紀後半バグダードが製紙業の重要拠点となる
900年エジプトで製紙が開始
969年中国で遊戯用カード(紙牌)がはじめて使われた
1041年--48年鉄の版に組まれる初の陶活字が中国で作られる.年代が特定される最古の可動活字
900年--1100年マヤ人が『ドレスデン・コデックス』を作成
1140年イスラム教徒支配下のスペインのハティバで製紙が始まる
1143年『コーラン』がラテン語に翻訳される
1164年イタリアのファブリアーノで初の製紙の記録
1308年ダンテが『神曲』の執筆を開始
1309年イングランドで紙がはじめて使用される
1332年オランダで紙がはじめて使用される
1353年ボッカチオが『デカメロン』を執筆
1387年チョーサーが『カンタベリー物語』の執筆を開始
1390年ドイツの製紙がニュルンベルクで始まる
1403年朝鮮王の太宗が銅活字を製造させる
1411年スイスで製紙が始まる
1423年ヨーロッパで木版印刷が始まったとされる
1440年--50年ヨーロッパで最初の版本(ブロック・ブック)が作られる
1456年グーテンベルクが可動活字で初の『聖書』の印刷を完成
1462年マインツが破壊され,印刷者が離散
1463年ウルリッヒ・ツェルがケルンで印刷所を興す
1464年ローマ近郊のスビアコ修道院がイタリアで最初の印刷所となる
1469年キケロの『家族への書簡集』が,ヴェネツィアで印刷された最初の書籍となる
1473年ルーカス・ブランディスがリューベックで印刷所を興す
1475年または1476年『東方見聞録』がフランス語で印刷された最初の書籍となる
1476年ウィリアム・キャクストンがイギリスで最初の印刷所を開く
1494年アルドゥス・マヌティウスがヴェネツィアにアルド印刷工房を開く
1495年ジョン・テイトがハートフォードシャーにイングランドで最初の製糸場を造る
1502年--20年アステカ人の貢ぎ物の記録に四十二ヵ所の製紙拠点が掲載されている.年間五十万枚の紙を作っていた村もある
1515年アルブレヒト・デューラーがエッチングを始める
1519年エルナン・コルテスが現ベラクルス付近に上陸し,アステカ文化の破壊を開始する
1520年マルティン・ルターの『キリスト教界の改善に関してドイツのキリスト諸貴族に宛てて』が印刷され,二年間で五万部が配布される
1528年ファン・デ・スマラガ神父が先住民の庇護者としてメキシコに到着し,本を燃やす
1539年スペイン人が先住民向けの本を作るためにメキシコ初の印刷所を開く
1549年マヤ人の図書館がスペイン人に焼かれる
1575年スペイン人がメキシコに最初の製紙場を建てる
1576年ロシア人が製紙を開始
1586年製紙許可の政令がドルトレヒトで発布される.オランダの製紙史上最古の記録
1605年セルバンテスの『ドン・キホーテ』が出版される
1609年世界初の週刊新聞がシュトラスブルクで創刊
1627年フランスのラ・ロシェルがカトリック勢力に包囲され,ユグノーの製紙業者はイングランドへ逃れる
1635年デンマークで製紙が開始
1638年英字印刷機はじめてアメリカへもたらされる
1672年オランダ式叩解機の発明によりオランダは良質な白い紙の輸入国から純輸出国に転じる
1690年ウィリアム・リッテンハウスがアメリカで最初の製紙場を設立
1690年アメリカで最初の新聞『パブリック・オカレンシズ・ボース・フォーリン・アンド・ドメスティック』がボストンで創刊
1690年アメリカ大陸の植民地で最初の紙幣がマサチューセッツで発行される
1698年トマス・セイヴェリが鉱山の排水目的で最初の蒸気機関を設計する
1702年ロンドンで日刊紙『デイリー・クーラント』が創刊
1719年ルネ・アントワーヌ・フェルショー・ド・レオミュールが木材から紙を作るスズメバチの手法を解説
1728年マサチューセッツで製紙が始まる
1744年はじめての児童向け絵本『小さなかわいいポケットブック』がイングランドで出版される
1744年ヴァージニアで製紙が始まる
1767年コネチカットで製紙が始まる
1768年アベル・ビュエルがアメリカ大陸植民地ではじめて活字を製造
1769年ニューヘイヴンのアイザック・ドゥーリトルが,イギリスのアメリカ大陸植民地ではじめて印刷機を製造
1773年ニューヨークで製紙が始まる
1774年スウェーデンの薬剤師カール・シェーレによる塩素の発見が漂白への道を開く
1785年ロンドンの独立系新聞『デイリー・ユニヴァーサル・レジスター』が創刊.三年後,『ザ・タイムズ』に紙名を変更
1790年トマス・ビュイックがイギリスでもっとも人気の挿絵画家となる
1798年ニコラ-ルイ・ロベールが連続式抄紙機の特許を申請
1798年画家J・M・W・ターナーが水彩画で実験を始める
1799年アロイス・ゼネフェルダーがリトグラフを考案
1800年スタンホープ卿が総鉄製の印刷機を発明
1801年ジョセフ-マリー・ジャカールがパンチカードによる自動織機を開発
1804年ブライアン・ドンキンが長網抄紙機の第一号を製造
1809年ジョン・ディキンソンが円網抄紙機の特許を取得
1811年フリードリヒ・ケーニヒが蒸気動力の印刷機を発明
1814年ロンドンの『ザ・タイムズ』がケーニヒの蒸気印刷機を使用
1818年ジョシュア・ギルピンがアメリカではじめて連続式抄紙機を製造
1820年この年イギリスで二千九百万部以上の新聞が売れる
1825年ジョセフ・ニセフォール・ニエプスがはじめて写真撮影する
1830年新しい漂白法により色つきのぼろ布から白い紙の製作が可能となる
1833年木材を原料とする製紙の特許がイギリスで登録される
1840年ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが紙に定着する写真をはじめて作成
1841年エビニーザ・ランデルズがロンドンの風刺雑誌『パンチ』を創刊
1843年アメリカのリチャード・M・ホーが蒸気動力の輪転機を発明
1863年アメリカの製紙業者が木材パルプの使用を始める
1867年イギリスの砕木機がパリ万国博覧会で展示される
1867年マサチューセッツ州のストックブリッジで合衆国初の製紙用の木材パルプが作られる
1867年タイプライターの発明
1872年アメリカ合衆国がイギリスとドイツを抜いて世界最大の紙の生産国になる
1874年東京の有恒社が機械漉き紙の製造を開始.大阪,京都,神戸の六社があとに続く
1890年合衆国の国勢調査にパンチカード式の集計機が使用される
1899年スウェーデンの探検家スヴェン・ヘディンが,古代都市,楼蘭の遺跡発掘作業中,紀元前252年の紙を発.紙の歴史を完全に塗り変える
1931年ヴァネヴァー・ブッシュがアナログ・コンピュータを開発
1945年ジョン・フォン・ノイマンが電子メモリをプログラミングするための二進数の採用を論文で発表
1947年トランジスタがベル研究所で発明される
1951年レミントン・ランドが,記憶装置と出力装置に磁気テープを登載したUNIVAC1を四十七台製造
1959年マイクロチップの特許出願


 ・ マーク・カーランスキー(著),川副 智子(訳)『紙の世界史 歴史に突き動かされた技術』 徳間書店,2016年.

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