hellog〜英語史ブログ

#2733. hoarser[phonetics][etymology][metathesis][r]

2016-10-20

 現代英語の hoarse (しゃがれ声の)には r が含まれているが,古英語での形は hās であり,r はなかった.主要な語源辞典によると,この r は中英語期における挿入であるという.意味的に緩く関連する中英語 harsk (harsh, coarse) などからの類推だろうとされている.
 ただし,この r の起源は,もっと古いところにある可能性もある.ゲルマン祖語では *χais(r)az, *χairsaz が再建されており,もともと rs の前後に想定されている(前後しているのは音位転換 (metathesis) の関与によるものと考えられる).実際に,ゲルマン諸語で文証される形態は,(M)HG heiser, MDu heersch, ON háss (< *hārs < *hairsaR) など,r を含んでいるか,少なくとも前段階で r が存在していたことを示唆している.
 一方,古英語と同様に r を欠く形態を示す言語も少なくない.OFr hās, OS & MLG hēs, OHG heis などである.どうやら,時代にもよるが,英語にかぎらず複数の言語変種において,r の有無は揺れを示していたようだ.とすると,古英語で r を含む形態が文証されず,中英語になって初めて文献上に現われたからといって,古英語で r 形がまったく使われていなかったとは言い切れなくなる.
 中英語では,hoos, hos, hors などが共存しており,実際この3つの綴字は Piers Plowman, B. xvii. 324 の異写本間に現われる.異綴字については,MEDhōs (adj.) も参照.
 r の挿入ではなく r の消失という過程についていえば,英語史上,ときどき観察される.例えば,「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1]),「#2368. 古英語 sprecen からの r の消失」 ([2015-10-21-1]) の事例のほか,arser が19世紀に脱落して ass となったケースもある.しかし,今回のような r の挿入(と見えるような)例は珍しいといってよいだろう(だが,「#500. intrusive r」 ([2010-09-09-1]),「#2026. intrusive r (2)」 ([2014-11-13-1]) を参照).

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