hellog〜英語史ブログ

#2486. 文字解読の歴史[review][toc][writing][medium][history_of_linguistics][grammatology]

2016-02-16

 「#2427. 未解読文字」 ([2015-12-19-1]) の記事で触れたように,未解読文字の解読にはロマンがある.解読成功者の解読プロセスを紹介する書は一級のミステリー小説といってよく,実際に数多く出版されている.多くの文字体系を扱っており読みやすいという点では,矢島(著)がおすすめである.その目次を挙げると,雰囲気をつかめるだろう.

 ・ ロゼッタ石を読む
 ・ 古代ペルシアの楔形文字
 ・ ベヒストゥン岩壁の刻文
 ・ 楔形文字で書かれた「ノアの方舟」
 ・ シュメール文明の再発見
 ・ 古代の大帝国ヒッタイトの文字
 ・ シナイ文字とアルファベットの起源
 ・ エトルリア語の謎
 ・ 東地中海の古代文字
 ・ クレタ=ミケーネ文字の発見
 ・ 線文字Bと建築家ヴェントリス
 ・ シベリアで見つかった古代トルコ文字
 ・ 甲骨文字と殷文明
 ・ カラホト遺跡の西夏文字
 ・ 古代インディオの諸文字
 ・ インダス文字とイースター文字
 ・ ファイストスの円盤と線文字A
 ・ ルーン文字とオガム文字
 ・ 梵字の起源とパスパ文字
 ・ 最古の文字はどこまでたどれるか
 ・ 古代文字はいかに解読されるか

 矢島 (234) は,最終章「古代文字はいかに解読されるか」で,現在までの世界の文字解読の歴史を4段階に分けている.

 (1) 手さぐりの時代(一八世紀以前)
 (2) ロマン主義の時代(一九世紀)
 (3) 宝さがしの時代(二〇世紀前半)
 (4) 科学的探究の時代(二〇世紀後半)


 よく特徴をとらえた時代区分である.文字解読がロマンを誘うのは,それが否応なく異国情緒と重なるからだろうが,(2) の「ロマン主義の時代」の背景には,「ヨーロッパ大国の東方への視線,端的にいえば植民地主義競争」 (239) があったことは疑いない.Jean-François Champollion (1790--1832) のロゼッタ石 (Rosetta stone) の解読には仏英の争いが関わっているし,楔形文字解読に貢献した Sir Henry Creswicke Rawlinson (1810--95) も大英帝国の花形軍人だった.
 (3) の時代は,世界的に考古学的な大発見が相次いだことと関係する.クレタ島,ヒッタイト,バビロニア,エジプト,中央アジア,西夏,殷墟の発掘により,続々と新しい文字が発見されては解読の試みに付されていった.
 現代に続く (4) の時代は,前の時代のように個人の学者が我一番と解読に挑むというよりは,研究者集団が,統計技術やコンピュータを駆使して暗号を解くかのようにして未解読文字に向かう時代である.言語学,統計学,暗号解読の手法を用いながら調査・研究を進めていく世の中になった.もはや文字解読の「ロマン主義」の時代とは言えずとも,依然としてロマンそのものは残っているのである.

 ・ 矢島 文夫 『解読 古代文字』 筑摩書房,1999.

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