[2011-10-17-1]の記事「#903. 借用の多い言語と少ない言語」の続編.言語によって借用語を受け入れる度合いが異なっている点について,Otakar Vočadlo という研究者が homogeneous, amalgamate, heterogeneous という3区分の scale of receptivity を設けていることに触れたが,同じ3区分法を採用している研究者に Décsy がいる.以下,下宮 (62--63) による Décsy の論の紹介を参照しつつ,3区分とそれぞれに属する主なヨーロッパ語を挙げよう.
(1) 借用に積極的な言語 "Mischsprachen" (混合語): English, French, Albanian, Romanian
(2) 借用に消極的な言語 "introvertierte Sprachen" (内向的な言語): German, Icelandic, Czech, Modern Greek
(3) 中間的な言語 "neutrale Sprachen" (中立的な言語): Polish, Danish, Swedish, Dutch
上で Mischsprachen として分類されている言語の借用元諸言語を記すと,以下の通り.
・ English: Old English, French, Celtic, Latin
・ French: Latin, Frankish, Celtic
・ Albanian: Illyrian, Latin, Slavic, Turkish
・ Romanian: Latin, Slavic, French
フランス語は近年英単語の借用を拒んでいるというイメージがあり,借用語の少ない言語かのように思われるかもしれないが,英語ほどとは言わずとも,かなりの Mischsprache である.基層のケルト語にラテン語が覆い被さったのみならず,フランク語からの借用語も少なくない.ゲルマン系とロマンス系が語彙的に同居しているという点では,英語とフランス語は一致している.
[2011-10-17-1]の記事でも触れたように,借用語の多寡は,その言語の構造的な問題というよりは,その言語の共同体の政治的・社会的な態度の問題としてとらえるほうが妥当のように思われる.もっと言えば,[2011-11-10-1]の記事「#927. ゲルマン語の屈折の衰退と地政学」で取り上げたように,共同体の地政学的な立ち位置に多く依存する問題なのではないか.
・ Vočadlo, Otakar. "Some Observations on Mixed Languages." Actes du IVe congrès internationale de linguistes. Copenhagen: 1937. 169--76.
・ 下宮 忠雄 『歴史比較言語学入門』 開拓社,1999年.
・ Décsy, Gyula. Die linguistische Struktur Europas. Wiesbaden: Kommissionsverlag O. Harrassowitz, 1973.
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