[2010-11-23-1]の記事で概説したように,現代的な punctuation の使用の歴史は古くない.「'」で表わされる記号 apostrophe の歴史も比較的新しい.この記号は16世紀にフランス語から借用され,17世紀に広まった.以来,apostrophe には3つの用法が発展してきた.
(1) 文字・数字の省略: cannot → can't, government → gov't, I am → I'm, never → ne'er, 1999 → '99
(2) 所有格: boy's, boys', Jusus'
(3) 文字や数字の複数形: two l's, three 7's, four MP's
元来は (2) と (3) の用法も,(1) の文字の省略の用法に起源をもつとされる.所有格語尾や複数形語尾の -s は中英語の -es (さらには古英語 -es や -as)に由来し,<e> で表わされる母音を伴っていた.この e を省略した表記として用いられたのが -'s だった.したがって,この省略表記は所有格にも複数形にも同様に適用され得たが,複数形では (3) に挙げた特殊な場合を除いては徐々に使用されなくなった.所有格でも,やがて e の省略という本来の役割から独立し,歴史的に e を欠いていた men's などにも付加され,現在の純粋に所有格を表わす用法へと発展していった.現在の apostrophe の規範は18世紀になってようやく確立したもので,それ以前はいまだ体系的に用いられていなかった.いや,それ以降も現在に至るまで,合理的な規範は完全には確立していないといってよく,英語使用者のあいだに混乱が続いている.
例えば[2009-11-11-1]の記事でみたように its と it's に見られる apostrophe の使用に関する混乱は日常茶飯事である.its, hers, ours, yours, theirs など代名詞の所有格や所有代名詞では apostrophe をつけないという特例があるし,one's のような不定代名詞の場合はやはり apostrophe をつけるというさらなる特例もある.銀行や店の屋号などでは Harrods, Lloyds には apostrophe を付加しないが,Macy's には付加するといった混乱振りである.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 203
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