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#6343. write の原義は「引っ掻く,彫る,刻む」 --- タイピングや音声入力でも「書く」?[outreach][etymology][writing][runic][medium]

2026-09-08

 昨日の記事 ([2026-09-07-1]) で少し触れ,「#1009. ルーン文字文化と関係の深い語源」 ([2012-01-31-1]) でも言及したことがあったが,英語の基本語 write は「引っ掻く,彫る,刻む」を意味する印欧語根 *(w)rei- に由来すると考えられている.
 ゲルマン人たちが木片や石にルーン文字をガリガリと彫り込んでいた時代の名残が,この英単語の原義に宿っているわけである.興味深いことに,日本語の「書く」も「掻く」と同根とされており,文化は違えど,「文字を記す」という原初体験が「表面を傷つけて痕跡を残す」行為であったことを物語っている 時代とともに書くためのツールは進化し,キリやノミから紙と筆へ,鉛筆やペンへ,さらにはキーボードでのタイピングへと移り変わった.そして現代では,声で文字を打ち込む「音声入力」なる技術まで現われてきている.私自身,英語史のアウトリーチ活動やその他で,日々のもろもろの文章を作成しているが,音声入力の恩恵に浴する機会が増えている.
 ふと立ち止まって考えると,これはなかなか倒錯的な事態である.声を出して入力しているのに,私たちはそれを「書く」と認識し,表現しているのだから.
 手も動かさず,物理的な摩擦すら生じない音声入力のどこに write の要素があるのかという疑問が湧かないわけでもないが,ツールが変われど「書き言葉」として思考を結実させる過程の本質は変わらない.口頭で吹き込んだ粗削りな言葉から始めるにせよ,それを推敲し,読者に届く文章へと研ぎ澄ましていく作業は,やはり一筋縄ではいかないものだ.
 文明の利器によって書く際に「引っ掻く」物理的な苦労からは解放された現代の私たちであるが,いざ思考を研ぎ澄まして何かを write しようとするとき,結局のところ頭を掻きむしるような苦悶と向き合い続けている.人間が書く行為の歴史の皮肉であり,おもしろさでもある.

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