「#4698. 池上俊一(著)『ヨーロッパ史入門 原形から近代への胎動』より「ゲルマンの習俗」について」 ([2022-03-08-1]) でも紹介した,岩波ジュニア新書からの池上著より.池上 (vii--viii) は「まえがき」においてヨーロッパの特質を,次のように指摘している.
ヨーロッパは地理的に画定された地域ではありませんし,ヨーロッパ人種やヨーロッパ語があるわけでもありません.ヨーロッパとは,ひとつの国家でもなければ,EU(欧州連合)のような政治的形成体でもなく,各時代において,それ以前の時代から遺贈された諸要素を使って,そのつど創られていく現在進行中の構成体であり統一体です.主導しているのは「文化」だと言えますが,その「文化」は,もちろん政治,経済,社会,宗教などと切り離せないものです.
本書では,ヨーロッパ諸国の共通性に力点がおかれます.しかしその共通性の背後にひかえる多様性が生み出す力学にも着目し,中小諸国や辺境の動向,非ヨーロッパ世界との関係にも注目するつもりです.なぜならヨーロッパの共通性は,多様性があってはじめて生きる体のもの,ヨーロッパ文化の豊かさ,普遍性は,それを時代ごとに交替で旗手として先頭に立って担う複数の文化,国民性にあるのであり,それらが対立しつつ連帯することによってこそ活力が生まれるからです.のっぺりと平準化されたヨーロッパには,魂がないと言ってよいと思うのです.歴史の進行を見れば明らかですが,ヨーロッパは中世における誕生から二〇世紀半ばまで,分裂と対立のくり返される衝突のなか以外には存在しなかったのです.
ヨーロッパの大きな鳥瞰図として,核心を突いており,とても分かりやすい構図である.歴史では,このようなマクロな鷲づかみこそがますます必要になってきていると感じる.
英語史も然り.詳細を知ったるその道の専門家が,歴史を大づかみして提示していくことの意義を考えさせてくれる.
・ 池上 俊一 『ヨーロッパ史入門 原形から近代への胎動』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉,2021年.
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