ことば遊び(言語遊戯)は,言語学の研究対象としては常にマイナーな地位を占めてきた.分野名も定まっていないし,そもそも「ことば遊び」の総称的な名称も定まっているのかどうか怪しい.英語でも word play, verbal play, speech play, play of language などと様々な言い方が存在する.
しかし,まったく研究されてこなかったわけではなく,修辞学や文体論との関連で扱われてきた経緯はあるし,近年ではコミュニケーション論や語用論的観点からも考察され,分野としての発展可能性が開かれてきた.人工知能研究との関連でも注目されてきているようだ.
中島(編)の『言語の事典』のなかに,滝浦真人による「ことば遊び」と題する1章があり,興味深く読んだ.そのイントロ (396) によると,ことば遊びの基本的特徴として逸脱性と規約性の2面性が挙げられるという.
ことば遊びとは,常にコミュニケーションの規範をすり抜けていく“逸脱的”な営みである.ことば遊びが話の文脈を脱線させ,あるいはメッセージを二重化して隠し,時にあからさまに相手に謎をかけるとき,言語の情報伝達性という大前提は多かれ少なかれ裏切られている.
しかし同時に,ことば遊びは,単に統御を欠いた破壊的な営みであるわけではない.ことば遊びを人が“ともに遊ぶ”ことができるのは,それが常に一定の規約性を基盤とするからである.そして,その基盤が規約=慣習 (convention) であるがゆえに,ことば遊びは個々の言語文化に固有の形態を育む.
ことば遊びが,言語の“型”の問題であることを超えて,広くコミュニケーション一般の問題となるのは,こうした二面性においてである.
ことば遊びは,情報伝達性を前提としたごく普通の言語コミュニケーションとは異なっているが,では何がどの程度どのように異なっているのかが問題となる.形式的な観点はもとより機能的な観点からも迫る必要があるだろう.
英語のことば遊びに関しては,Crystal の英語学入門書が具体例を豊富に挙げつつ解説しており,有用である.
・ 滝浦 真人 「ことば遊び」『言語の事典』 中島 平三(編),朝倉書店,2005年.396--415頁.
・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.
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