今泉 忠明 (監修)『「おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店,2016年)などの,ちょっと間抜けな生物を扱った本が受けているようだ.最近,宣伝が出ていて気になったのが,芝原 暁彦(監修)・土屋 健(著)『おしい!ざんねん!!会いたかった!!!あぁ,愛しき古生物たち --- 無念にも滅びてしまった彼ら ---』(笠倉出版社,2018年)である.
うならせるほどの奇妙な形態のオパビニア,背中の帆の役割が今もってはっきりしないディメトロドン,宇宙人さながらのマルレラなど,どうしてこんな風に進化したのだろうと想像すると興味がつきない.120種類の古生物が,愛らしいイラストと笑えるコメントをもって紹介されている.
サイエンスライターの著者が「おわりに」 (pp. 156--67) で次のように述べているのが目を引いた.
そもそも「進化」とは,どのようなものなのでしょうか?
簡単に言えば,それはこういうものです.
「変化が世代を超えて受け継がれていくこと」
もっと簡単に言えば,「進化とは変化」です.そこにはポジティブな意味も,ネガティブな意味もありません.ただ単純な「変化」なのです.
さまざまな変化が受け継がれることで,生命は多様化していき,「ちょっ!なんで,こんな生き物になったの!」とも思える愛すべき生物をたくさん生み出してきたのです.
この文章は,「生物」を「言語」に変えても,ほぼそのまま理解することができる.
そもそも「(言語の)進化」とは,どのようなものなのでしょうか?
簡単に言えば,それはこういうものです.
「変化が世代を超えて受け継がれていくこと」
もっと簡単に言えば,「進化とは変化」です.そこにはポジティブな意味も,ネガティブな意味もありません.ただ単純な「変化」なのです.
さまざまな変化が受け継がれることで,言語は多様化していき,「ちょっ!なんで,こんな言葉になったの!」とも思える愛すべき言語をたくさん生み出してきたのです.
「変化が世代を超えて受け継がれていく」という部分については,生成文法の子供基盤仮説の立場からは反論や修正意見が出されるかもしれないが,緩く解釈すれば,このまま理解できる.言語変化は価値観を伴わないただの変化であり,その結果として多種多様な,ときに驚異的な特徴をもつ愛すべき諸言語が生まれてきたのである.
「ざんねんな言語」と名指ししたら,その話者に怒られそうだが,この「ざんねんな」は生物の場合と同じように相対主義を前提としての愛情と敬意のこもった修飾語であり,むしろ賛辞だと信じている.日本語も英語も,いろいろと「ざんねんな」部分はあるのだろうが,そこがまた愛しいのだろう.言語の「ざんねん」本もいろいろ出てくるとおもしろそうだなあと夢想する.
言語変化の価値中立性については「#1382. 「言語変化はただ変化である」」 ([2013-02-07-1]),「#2525. 「言語は変化する,ただそれだけ」」 ([2016-03-26-1]),「#2544. 言語変化に対する三つの考え方 (3)」 ([2016-04-14-1]),「#3354. 「言語変化はオフィスの整理である」」 ([2018-07-03-1]),「#3529. 言語は進歩しているのか,堕落しているのか?」 ([2018-12-25-1]) を参照.
・ 芝原 暁彦(監修)・土屋 健(著)『おしい!ざんねん!!会いたかった!!!あぁ,愛しき古生物たち --- 無念にも滅びてしまった彼ら ---』(笠倉出版社,2018年)
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