若林俊輔(著)『英語の素朴な疑問に答える36章』に,英語教育において用いられるべき最低限の文法用語として,以下のものが掲載されている (198--99) .これは,1984年に財団法人語学教育研究所の研究大会で発表された「中学校・高等学校における文法用語 101」のリストである.* 印は中学校における文法用語,無印は高校で初めて導入される(べき)文法用語である.若林もこのプロジェクト・メンバーの1人だった.
*文 平叙文 肯定文 否定文 *疑問文 付加疑問 *命令文 *感嘆文 *文型 *主語 述語動詞 主部 述部 形式主語 補語 *目的語 形式目的語 SV SVC SVO SVOO SVOC 修飾語句 *品詞 *語 *単語 *語尾 *名詞 *数えられる名詞 *数えられない名詞 *固有名詞 *単数(形) *複数(形) *1人称 *2人称 *3人称 *主格 *所有格 *目的格 *代名詞 人称代名詞 *動詞 *活用 自動詞 他動詞 *be 動詞 知覚動詞 使役動詞 *助動詞 冠詞 *形容詞 *副詞 *前置詞 *接続詞 *疑問詞 間投詞 *関係代名詞 関係副詞 *先行詞 *原形 *現在形 *過去形 未来形 *進行形 *現在進行形 *過去進行形 未来進行形 *完了形 *現在完了形 過去完了形 未来完了形 受動態 能動態 *受身形 不定詞 分詞 現在分詞 *過去分詞 *-ing 形 分詞構文 動名詞 *原級 *比較級 *最上級 仮定法 部分否定 *句 名詞句 形容詞句 副詞句 節 名詞節 形容詞節 副詞節 主節 従属節 *名詞用法 *形容詞用法 *副詞用法 制限用法 非制限用法
若林 (199) も述べている通り,このリストは,「受動態」と「受身形」の混在なども含め,多くの妥協の産物である.用語の選定の難しさについて,若林は次のようにコメントしている (200) .
私は,この表を作成した当時もそうであったのだが,「文法用語」の整理・削減はなかなか困難な仕事であると思っている.それは,英語教師一人一人の「文法用語」の一つ一つへの思い入れがあるからである.楽しく,あるいは,苦しみながら習い覚えた「用語」が懐かしくてしかたがない.ノスタルジアである.
私は,ノルタルジアでは教育はできないと考えている.この種のノスタルジアは,しばしば,マイナス効果しかもたらさない.しばしば,生徒たちの学習を混乱させる.用意であるべき学習を困難なものに変質させる.進歩すべき教授・学習の足を引っ張る.後退させる.
英語学としては用語や概念は多数必要だろう.なかには不要なものもあるとはいえ,言語という複雑なものを研究し,整理するためには様々な切り口が必要であり,それに伴って用語が膨らんでいくのも無理からぬことである.しかし,英語教育ということになれば,学習者のメリットになるように用語を整理(多くの場合,削減)することが必要であることは論を俟たない.とはいえ,である.ノスタルジアというのは,とてもよく分かってしまう表現なのだ.
英語史研究でも同様に,専門的な用語が洪水のように現われるのは致し方ないにせよ,最初の導入の段階では最小限度に収めようとする努力は必要だろうと思う.
・ 若林 俊輔 『英語の素朴な疑問に答える36章』 研究社,2018年.
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