日本ではお目にかからないが,西洋で rhubarb /ˈruːbɑːb/ (ルバーブ)と呼ばれる食用植物がある.フキに似ているが,葉が赤みを帯びており,酸味を伴うためにジャムやソースの材料となる.
今回の話題は,この rhubarb の綴字が rubarb へ変化してきているらしいということだ.この語は,フランス語 reubarbe が中英語期に rubarbe として借用されたもので,当時は <rh> の綴字はなかった.もともとはラテン語,さらにはギリシア語に遡り,そこでは <rh> の綴字も見られたので,英語は近代期にそれを参照して rhubarb と綴りなおした(現代フランス語でも rhubarbe の綴字である).つまり,典型的な語源的綴字 (etymological_respelling) の例である.
このように,英語では rhubarb が標準的な綴字として定まったわけだが,近年,元に戻るかのような <h> を削除した rubarb が現われてきているという.Crystal (220--21) が,この綴字の変化に注目している.
I have been following the fate of the h in rhubarb in the Google database over the past few years. In 2006 there were just a few hundred instances of rubarb; in 2008 a few thousand; in 2010 there were 91,000; at the beginning of 2011 this had increased to 657,000, and by the end of the year it had passed a million. The ratios are the interesting thing: those 91,000 instances of rubarb in 2010 compared to 3,210,000 instances of rhubarb --- a ratio of 1:35. The following year, 657,000 rubarbs compared to 13 million rhubarbs --- a ratio of 1:20. And later that year rubarb passed the million mark. If it carries on like this, rubarb will overtake rhubarb as the commonest online spelling in the next five years. And where the online orthographic world goes in one decade, I suspect the offline world will go in the next.
rubarb の新綴字は「綴字間違い」にすぎないという向きもあるだろう.確かにスタートとしてはそうだったかもしれない.しかし,もしこの「綴字間違い」が進行し,オンラインで本来の rhubarb を抜く事態となったとすれば,もはや「綴字間違い」ではなく,少なくとも異綴字とみなされるようになるのではないか.私の手持ちの辞書では rubarb は,見出しはおろか異綴字としてすら掲載されておらず,現在「非標準」であることは疑いえないが,今後 r(h)ubarb にどのような運命が待ち構えているのか,気長に待っていきたい.
・ Crystal, David. Spell It Out: The Singular Story of English Spelling. London: Profile Books, 2012.
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