言語使用において同期するイントネーション,プロソディ,休止,視線,ジェスチャーなどのパラ言語的要素 (paralinguistics) を,統合的に観察し研究する方法論として「マルティモーダル分析」 (multimodal analysis) が提案されている.そのなかでもジェスチャーの研究が近年盛り上がりを見せているようだ.
ジェスチャーは,以下のように分類されている(以下の図と説明は,片岡,p. 85 を参照した).
┌── エンブレム
ジェスチャー ──┤ ┌── 拍子(ビート)
└── 自発的ジェスチャー ──┤ ┌── 直示的ジェスチャー
└── 表象的ジェスチャー ──┤ ┌── 映像的ジェスチャー
└── 描写的ジェスチャー ──┤
└── 暗喩的ジェスチャー
まず「エンブレム」とは,Vサイン,お辞儀,アッカンベー,ハイタッチなどの社会的に慣習化した記号を指す.言語における単語に近い.これに対して,完全に慣習化しているとはみなせない,発話に伴って自発的に表出する身振りが「自発的ジェスチャー」である.
自発的ジェスチャーのうちの「拍子(ビート)」は,指で拍子を取るような動きに代表されるもので,談話構築的機能を有しているとされる.「表象的ジェスチャー」は,時空間の類似性・隣接性に基づくものであり,「直示的ジェスチャー」と「描写的ジェスチャー」に下位区分される.
直示的ジェスチャーの代表は指差しである.描写的ジェスチャーは,指示対象の形態,動作,位置関係などを再現しようとする「映像的ジェスチャー」と,抽象的な内容を空間上に視覚化して描写する「暗喩的ジェスチャー」に分けられる.例えば,「山」を表わすのに両手で山の形を作るのは映像的 (iconic) であり,時間の経過を示すのに手を何らかの方向に動かすのは暗喩的 (metaphoric) である.
・ 片岡 邦好 「第5章 マルティモーダルの社会言語学 ――日・英対照による空間ジェスチャー分析の試み――」『社会言語学』井上 逸兵(編),朝倉書店,2017年.82--106頁.
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