英語で未来の時間を指す表現として,一見相反するような例が挙げられる."in the weeks ahead of us" では未来が物理的に前方にあるかのような表現だが,"in the following weeks" ではむしろ表現としては後方にあるかのようである.過去についても同様に,"That's all behind us now." という文では過去の時間が後方にあるかのようだが,"in the preceding weeks" では過去はむしろ前方にあるものとして表現されている.この矛盾はどのように説明されるのだろうか.
Lakoff and Johnson (41) は,このような表現は矛盾に見えるだけであり,認知的には首尾一貫 (coherent) していると説く.英語では,時間は "TIME IS A MOVING OBJECT" という概念メタファー (conceptual_metaphor) によってとらえられる.例えば,時間は前方から私たちの方にやってきて,私たちの後方へと過ぎ去ってゆくものととらえることができるだろう.
・ The time will come when . . .
・ The time has long since gone when . . .
・ The time for action has arrived . . .
未来は私たちの前方にあることを示す例を追加すると,
・ Coming up in the weeks ahead . . .
・ I look forward to the arrival of Christmas.
・ Before us is a great opportunity, and don't want it to pass us by.
さらに,時間は前方の未来から顔を私たちの方に向けて近づいてくるというとらえかたを示す例を挙げる.
・ I can't face the future.
・ The face of things to come . . .
・ Let's meet the future head-on.
以上は,私たち人間の立場からみて未来が前方にあるという例である.しかし,私たちの方に顔を向けて進んでくる時間の立場からすれば,自分の後ろからついてくるものは,さらに遠い未来である.したがって,"next week and the week following it" のような言い方が可能になる.さらに,未来を表わすのに両観点の混じった "We're looking ahead to the following weeks." なる表現も自然に理解される.
以上をまとめれば,未来は,私たちの立場からみれば前方にあるが,時間の立場からみれば後方にある.相反するようでいて実のところ共通しているのは,私たちと時間が対向しているという構図である.いずれかの観点に立つと,他の観点と相容れない (inconsistent) ように見えるが,一歩引いて構図全体として理解すれば,時間に関するとらえ方,あるいはメタファー的概念は首尾一貫している (coherent) のである.
・ Lakoff, George, and Mark Johnson. Metaphors We Live By. Chicago and London: U of Chicago P, 1980.
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