昨日の記事 ([2016-01-09-1]) に引き続いて,書字方向について.世界の主たる書字方向を整理すると,次のようになる.これは西田 (242) の図を参照したものであり,書字方向の各タイプについては私が便宜上適当な呼称をあてがった.
I. 横書き型 II. 縦書き型
│ │
┌─────┬───┴───┬──────┐ ┌────┴────┐
│ │ │ │ │ │
(a) (b) (c) (d) (a) (b)
左横書き 右横書き 右左横書き 左右横書き 右縦書き 左縦書き
(牛耕式) (牛耕式)
4 3 2 1 1 2 3 4
1 ───→ ←─── 1 ←─── 1 1 ───→ │ │ │ │ │ │ │ │
2 ───→ ←─── 2 2 ───→ ←─── 2 │ │ │ │ │ │ │ │
3 ───→ ←─── 3 ←─── 3 3 ───→ │ │ │ │ │ │ │ │
4 ───→ ←─── 4 4 ───→ ←─── 4 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
以下,西田 (242) に従って,各々の型の代表的な文字を列挙する.
・ I(a) の左横書きは,英語をはじめとするローマン・アルファベット系の文字やインド系の文字(ナーガリー文字,チベット文字)が含まれる.
・ I(b) の右横書きは,シリア・アラビア系の文字(アラビア文字,ヘブライ文字,ソグド文字)や突厥文字に採用されている.
・ I(c) の右左横書き(牛耕式)には,紀元前2500年頃の未解読のインダス文字や初期のシリア・アラビア系文字などが属する.
・ I(d) の左右横書き(牛耕式)は,紀元前1500年頃のヒッタイト象形文字がこの統字法をもっていたと考えられている.
・ II(a) の右縦書きは,漢字系文字(漢字,西夏文字,女真文字)や日本語の文字において行なわれている.
・ II(b) の左縦書きは,ウイグル系文字(蒙古文字,満州文字)やパスパ文字が代表でなる.
先の記事で触れたように,複数の型をとることが可能な文字は,古今東西,珍しい.エジプト聖刻文字は縦横両方が可能だったが,日本語は現行の I(a) と II(a) のほか,歴史的には I(b) や II(b) もあった,世界の文字のなかでは特異である.日本語の書字方向の歴史については,屋名池による新書がすこぶる有益であるので,お薦めしたい.
・ 西田 龍雄(編) 『言語学を学ぶ人のために』 世界思想社,1986年.
・ 屋名池 誠 『横書き登場―日本語表記の近代』 岩波書店〈岩波新書〉,2003年.
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