昨日の記事「#883. Algeo の新語ソースの分類 (1)」 ([2011-09-27-1]) の続編.Algeo による word-making の9個の基準は,以下の問いで表わされる.
(1) Does the new item have an etymon?
既存の語から作られているかどうか.ほとんどの新語について答えは Yes だが,そうでない稀なケースでは語根創成 (root creation) が行なわれていると考えられる.例えば,10の100乗の数を表わす googol は,子供による語根創成とされる.
(2) Does the new item have a borrowed etymon?
この基準は,(1) が Yes の場合に,その既存の語が自言語(化された)のものであるか,他言語から借用されたものであるか (borrowing) を区別する.例えば,influenza は借用語だが,flu は influenza が自言語化した後にそれに基づいて作られた語と考えられるので,この基準の問いの答えは No となる.
(3) Does the new item combine two or more etyma?
(4) Does the new item shorten an etymon?
この2つの基準を掛け合わせると,以下の4種類の区別が得られる.
| 1 etymon | 2+ etyma |
unshortened | fun (conversion) | funhouse (composite) |
shortened | cab (clipping) | smog (blending) |
名詞の
fun から形容詞の
fun が生じるような例は,
品詞転換 (
conversion),
機能転換 (
functional shift),
ゼロ派生 (
zero-derivation) などと呼ばれる.語彙体系に新しい語形が加わるわけではないという点で,特異である.
(5) Does the new item have an etymon that lacks a formal exponent in the item?
smog においては,元となっている
smoke と
fog の形態がそれぞれ部分的にではあるが反映されている.しかし,なかには元となっている要素が形態上まったく反映されていない例がある.例えば,
superman は
Übermensch の
翻訳借用 (
loan translation or
calque) とされるが,形態上,新語に原語の要素は反映されていない.Cockney riming slang の
trouble and strife (=
wife) も同様の例である(ただし,まったく反映されていないわけではないので線引きは難しい).
(6) Does the new item have a phonological motivation?
grutch の語末子音の置換により
grudge が生じたり,
morphophonemics から重音脱落により
morphonemics が生じたりする例などがある.
(7) Do the etyma include more than one base? (More precisely: If there is only one etymon, does it consist of more than one base; or if there are several etyma, do at least two contain bases?)
funhouse では答えは Yes であり
slowly では答えは No である.つまり,この基準は,
複合 (
compounding) と
接辞添加 (
affixation) を区別する.それ以外にも,
jet-propelled airplane を切り株にしたと考えられる
jet と,
cabriolet を切り株にした
cab とを区別するのにも関与する.
(8) Does the new item derive from written rather than spoken etyma?
situation comedy の短縮として
sitch com より
sit com が普通であるのは,
situation の綴字への依存が大きいからである.
頭字語 (
acronym ) なども書き言葉に依存している.
(9) Does the new item add new morphs to the language?
funhouse は語彙目録に新しい形態を追加しない(
fun も
house も既存の形態である)が,
smog は新しく語彙目録に加わったといってよい.
9個の基準をかけ合わせれば,word-making の論理的な組み合わせの種類は膨大となる.実際的には,Algeo が論文の補遺で提示している37のクラス分けで十分(以上)に用を足すだろう.
また,新語を分類するのに,実際上ここまで詳細な区分に則る必要があるのか,あるいはより粗い区分で済むのかは,分類の目的によっても変わってくるだろう.しかし,このような論理的で理論的な区分を意識しておくことには利点がある.1つには,Algeo (127) が指摘しているように,一見すると同じ blending の例と考えられる
guesstimate と
Amerindian でも,前者は paradigmatic な関係にある2つの etyma (
guess と
estimate) の合成であり,後者は syntagmatic な関係にある1つの句としての etymon (
American Indian) の短縮である,というように直感的には得にくい区別が得られるようになるという利点がある.他には,ある語の word-making を分類中に迷いが生じた場合,それが悩むに値する問題なのか,あるいは理論的にも扱いにくいものだからといって開きなおるか,いずれの選択肢を取るべきかを決定する指針を与えてくれるという実際的な利点もある.
word-making は共時態と通時態の接点でもある."etymon" という術語が示唆しているとおり,上記の9個の基準はいずれも通時的である.しかし,それによって新語を分類しようとする目的そのものは共時的だ.word-making の話題のおもしろさと奥深さは,この点にもあるのだろうと思う.
無論,漏れのない分類法を作ることは不可能に近い.上記の基準でも明確に区分されない例は多々あることは前提としたい.
・ Algeo, John. "The Taxonomy of Word Making."
Word 29 (1978): 122--31.
[
|
固定リンク
|
印刷用ページ
]