昨日の記事[2009-12-29-1]で,women's /wɪmɪnz/ が日本語の発音としては「ウィメンズ」になってしまうことに触れた.日本語版のほうが,発音上「メンズ」と韻を踏むだけでなく,綴字上も韻を踏む ( eye rhyme ) ことになり,むしろ「メンズ」との対比が効果的とすらいえるかもしれない.
「メンズ」に対して「ウィミンズ」では,対比の効果が薄れるばかりか,[2009-12-06-1], [2009-12-07-1]で解説した母音変化の歴史など,共時的視点からすると規則性を乱しているにすぎないとも考えられるわけであり,こと外国語として英語を学ぶ日本語母語話者には受けないのかもしれない.日本語において「ウィミンズ」ではなく「ウィメンズ」が採用されていることは,(1) 押韻の保持,(2) 形態的平行性の保持,という二つの観点から説明できるように思われる.
興味深いことに,この二つの観点は,female という英単語の語形を説明するのにも有効である.male に対して female というペアは,(1) 発音でも綴字でも韻を踏んでおり,(2) -male 部分に形態的平行性がみられるために規則的な印象を与えている.
しかし,語源を探ると male と female はまったく無関係である.male は,ラテン語 masculum が古フランス語において縮まり,14世紀に英語に入ってきた形態である.予想されるとおり,masculine と語源的なつながりがある.一方,female は,ラテン語 fēmellam が古フランス語において縮まり,同じく14世紀に英語に入ってきた形態である.male と female で,<l> こそ指小辞の一部として形態的に関連があるが,語幹の <m> には語源的・形態的なつながりはない.その証拠に,英語へ借用された初期には femel(e), femelle など,male と異なる語幹母音字をもつ綴字がおこなわれていた.
だが,male と連想づけたいと思うのが人情である.14世紀後半という早い段階で,male と韻を踏む female の例が確認されている.本来の語源的形態を曲げてでも,意味的に対照関係にある male と形態をそろえたいという人々の思いが実ったかのようである.
male に対する female という語形の成り立ちは,「メンズ」に対する「ウィメンズ」という語形の成り立ちとまったく同じである.「ウィメンズ」ではなく「ウィミンズ」が正しい形態であり譲れないと主張する人は,同時に female ではなく femele が正しい形態であり譲れないと主張しなければ,自家撞着ということになる.
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