hellog〜英語史ブログ

#61. porridge は愛情をこめて煮込むべし[etymology]

2009-06-28

 スコットランドの伝統的な朝食に porridge がある.水や牛乳で煮込んであるオート麦などの粥である.
 もう10数年前になるが,スコットランドのスカイ島 (The Isle of Skye) へ旅したときのこと.島のB&Bに泊まり,翌朝出された朝食がこのポリッジだった.初体験だったが,まことにおいしい.米のお粥とは風味は異なるが,暖かみと腹にたまる点は同じだ.
 そのときに驚いたのは,調味料として塩と砂糖が出てきたことだ.米の粥に砂糖というのは考えただけでも気持ち悪いが,当地ではポリッジに砂糖というのがあり得る.塩派と砂糖派がいるようだが,やはり砂糖はいただけない気がする.断然,塩の方がおいしい(と思う).ちなみに,当地ではお粥に近いどろどろの米に甘味調味料をこれでもかと入れたデザートが rice pudding という名で一般に売られている.書いているそばから,想像して気分が悪い.
 さて,スカイ島でのポリッジ初体験が印象に残っていたが,その旅行の数年後に縁あってスコットランドに留学することになった.過去のポリッジ体験を思い出して,留学中の一時期,毎朝,自分でポリッジを煮て食べていた.調理が簡単だし,原料は安いし,牛乳も一緒に摂れるし,とりあえず腹にたまる.だが,何かが違う.スカイ島のB&Bで食べたポリッジと全然違う.おいしくない.どちらかというとまずい.だが,安いし腹にたまるしいいか,ということで惰性的に食べ続けた.さすがにそのうちに飽きてきて,米を炊いて食べるようになった.ポリッジのイメージは,もはやスカイ島のそれではなく,学生寮で毎朝口にしていた,あの特においしいとも思えないものへ変容してしまったのだった.
 さて,porridge は16世紀に初めて英語に現れた語だが,その頃の原義は「野菜・肉の煮込みスープ」だった.この語は,13世紀から英語にあった pottage という語の第二子音が変化したものである.この pottage も「野菜・肉の煮込みスープ」の意であり,potage というフランス借用語のアクセントが後方から前方へ移動した変異形である.アクセントが後ろにあるフランス語本来の形は,16世紀に改めて「(フランス料理の)ポタージュ」という意味で英語に入ってきた.いずれも,pot 「なべ」で煮込んだ料理である.porridge は「野菜・肉の煮込みスープ」の原義から,17世紀に現在の「オート麦などの粥」の意味へ変化した.
 この語源は後で知ったわけだが,もし留学中に porridge とは鍋でじっくり煮込んで始めて味わえる煮込みスープに由来するのだと知っていれば,もう少し料理の仕方が変わっていたかもしれない.スカイ島のB&Bのポリッジがおいしかったのは,おそらく出汁をとってじっくり煮込んであったからなのだろう.家庭の温かさを感じさせるのは,日本の粥もスコットランドのポリッジも同じである.一方で,留学中に自炊したポリッジは,スーパーで買った安物の原料をポイと鍋に入れて出汁もなしに数分煮ただけである.これではおいしいはずがない.次に機会があるときには,煮込みスープ煮込みスープ煮込みスープと念じながらじっくり愛情をこめてポリッジを煮込んでみたい.語源も料理も実に深い・・・.

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