昨日の記事「#5133. 言語項移動の類型論」 ([2023-05-17-1]) の続編.Heine and Kuteva (87) が,言語項移動 (linguistic transfer) の主な種類を次のように分類している(ここでは提示の仕方を少々改変している).
Contact-induced transfer ─┬─ Borrowing │ └─ Replication ─┬─ Lexical replication │ └─ Grammatical replication ─┬─ Contact-induced grammaticalization │ └─ Restructuring ─┬─ Loss │ └─ Rearrangement
Heine and Kuteva によれば,これらの用語やその背後にある洞察は,Weinreich に負っている (86) .replication とは "kinds of transfer that do not involve phonetic substance of any kind" のことであり,伝統的に "structural borrowing" や "(grammatical) calquing" と呼ばれてきたものに相当する.この replication には,一方で語彙に関するものがあり,他方で文法的意味・構造に関するものがある.後者の replication は,本質的には文法化 (grammaticalisation) に沿ったものとなるが,そうでない少数の例のために restructuring という用語を充てておく(そしてさらに細分化する).上の図は,このような言語項移動に関する見方を整理したものである.
言語接触 (contact) に関する類型論 (typology) は様々なものが提案されてきたが,この Heine and Kuteva の分類もたいへん示唆的である.その他,以下の記事などを参照されたい.
・ 「#1779. 言語接触の程度と種類を予測する指標」 ([2014-03-11-1])
・ 「#1780. 言語接触と借用の尺度」 ([2014-03-12-1])
・ 「#1781. 言語接触の類型論」 ([2014-03-13-1])
・ 「#1985. 借用と接触による干渉の狭間」 ([2014-10-03-1])
・ 「#2008. 言語接触研究の略史」 ([2014-10-26-1])
・ 「#2009. 言語学における接触,干渉,2言語使用,借用」 ([2014-10-27-1])
・ 「#2079. fusion と mixture」 ([2015-01-05-1])
・ 「#4410. 言語接触の結果に関する大きな見取り図」 ([2021-05-24-1])
・ Heine, Bernd and Tania Kuteva. "Contact and Grammaticalization." Chapter 4 of The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 86--107.
・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.
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