授業でディスカッションなどをしていると,ときに学生から驚くような発想が飛び出し,感じ入ることがある.先日,造語法としての省略 (abbreviation) や短縮 (shortening) という話題を取り上げ,話者は何のために語を切り詰めたがるのだろうかということを議論した.
授業では,話者には頻用する表現を短く楽に発音したいといった実際的な欲求があり,省略・短縮という形態的手段を通じて,その欲求を満たすのだろうという議論をしようと思っていた.つまり,話者は純粋に形態的な簡便さを目指して言語行動を行なうことがしばしばある,ということを論じようと考えていた.
ところが,ある学生が思ってもみない方面からコメントをくれた.省略・短縮はそのような形態的な問題であるばかりではなく,それ自体が独自の機能をもっているのではないかというのだ.たとえば,「コンビニ」は「コンビニエンスストア」を簡単に短く言うために作られた省略語であるという議論は確かに受け入れられるが,一方でそれが単なるコンビニエンスストア(=便利店)にとどまらず,独自の店舗形態と個性をもった「コンビニ」という固有の存在であることを明示するために,あえて「コンビニエンスストア」とは異なる形態,この場合には縮約された形態を取っているのではないかと.つまり,省略・短縮には機能的な役割があるという指摘だ.
確かに元の表現をベースにしながらも,それとは異なる表現を作り出すことは,機能的独立を目指す造語行為といえる.そのような造語法には借用,派生,合成,転換を含めて様々な形態的手段があり得るが,最も手近で実用的な方法の1つに省略・短縮があるだろう.発音も楽になるし,元の表現とは似ていながらも一応異なる形態になるという点では,省略・短縮は複合的なニーズを満たしてくれる語形成上の優等生といえそうだ.
俗語,隠語などの生成動機の問題にもつながる重要な視点である.素晴らしい.
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