hellog〜英語史ブログ

#3035. Lowth はそこまで独断と偏見に満ちていなかった?[prescriptive_grammar][lowth]

2017-08-18

 Robert Lowth の後世への影響力は計り知れない.伝統的な解釈では,A Short Introduction to English Grammar (1762) で示された Lowth の規範は,彼自身の独断と偏見に満ちたものであるというものだ.そして,Lowth の断言的な調子は,彼の高位聖職者としての立場と関係しているとも言われてきた.
 しかし,Tieken-Boon van Ostade (543) によれば,この解釈は必ずしも当たっていないという.Lowth の批評家の多くは,彼のロンドン主教としての立場を強調するが,Lowth がこの職を得たのは1777年のことである.確かに少しさかのぼる1766年にも St. David's,そして Oxford の主教ともなっているが,いずれにしても1762年の文法の出版の数年後のことである.したがって,「高位聖職者にふさわしい独断と偏見」という評価は,アナクロだということになる.
 また,Lowth の頑固さのイメージについても誤解があるようだ.同時代の著者である William Melmoth (1710--99) が A Short Introduction to English Grammar の初版に対して施した訂正を,Lowth 自身が第2版 (1763) のために受け入れたという事実がある.さらに,初版の序文にて Lowth は読者に改善のための情報提供を直々に呼びかけているのだ.

If those, who are qualified to judge of such matters, and do not look upon them as beneath their notice, shall so far approve of it, as to think it worth a revisal, and capable of being improved into something really useful; their remarks and assistance, communicated through the hands of the Bookseller, shall be received with all proper deference and acknowledgement. (1762: xv; quoted in Tieken-Boon van Ostade, 543.)


 もっとも,この序文の文句はある種の社交辞令かもしれないが.いずれにせよ,Lowth のイメージは現代の規範文法を巡る言説のなかで作り上げられ,多かれ少なかれ誇張されてきたものであることは確かだろう.

 ・ Tieken-Boon van Ostade, Ingrid. "Eighteenth-Century Prescriptivism and the Norm of Correctness." Chapter 21 of ''The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 539--57.

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