昨日の記事 ([2017-08-16-1]) で,戦争が語彙に及ぼす影響について取り上げ,2つの世界大戦より具体例を挙げた.戦時に様々な戦争用語が生まれるというのは自然なことであり,疑うべきことではないが,戦争と「著しい」語彙革新とが常に関連づけられるものかどうかは慎重に調べる必要がある.というのは,むしろ2つの世界大戦期には,語彙革新が相対的に少なかったというデータがあるからだ.
Beal (29--34) の A Chronological English Dictionary に基づいた新語の初例登録年代の調査によると,意外なことに,1915--19年と1944--45年に新語導入の谷が現われている.この年代はちょうど両世界大戦に相当し,むしろ語彙革新が激しかったのではないかと予想される時期である.
ここで重要なのは,これらの時期に「戦時新語」が他の時期と比べて多かっただろうことは自明だが,「戦時新語」以外の新語を含めた新語の総数が多かったとは限らないという点だ.研究者も私たちも,この時期に「戦時新語」の例を探し求めたがり,結果としていくつかの例を見出すことになるが,それはその時期の新語総数が多かったということと同義ではない.新語総数としては著しくなかかったという可能性があるし,事実,この調査によればその通りだったのだ.Beal (33) は次のように述べている.
[W]ar does not stimulate lexical innovation: although the loan-words from allies and enemies alike are noticed during and after these conflicts, they are not great in number.
予想に反して戦時には新語が少ないという仮の結論となったが,これが本当だとすると,いったいなぜだろうか.これはこれで興味深い問題となる.
・ Beal, Joan C. English in Modern Times: 1700--1945. Arnold: OUP, 2004.
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