我が国の言語政策の提案として英語の第二公用語化という議論があるが,よく考えるとこの名称はおかしい.日本には,正確な意味での第一公用語はないからだ.鈴木 (23) のことばを引く.
日本人にとっては日本で日本語を使うのはあたりまえのことなのです.したがって法律的にわざわざ日本語を公用語と規定する必要はない.それがないところへもってきて,突然に第二公用語と言い出すのは,軽率というか不勉強だと思います.
公用語というのは,このように日本やアメリカを見てもわかるように,必要に迫られない場合には決めないものなのです.スイスやシンガポールやインドといった,よく例に出る国の場合は,国の中が複数の言語,場合によっては多言語になっている.そこでいくつもある言語を法的に位置づけることが必要になる.たとえば学校教育だとか,政治,公の文書とか,法律や裁判をどの言語で行うか,というふうな問題が出てくるからです.
ここで分かりやすく述べられているように,公用語 (official_language) とは社会的な必要に迫られて,国により法的に定められるものである.日本における日本語,イギリスにおける英語などは「公用語」化する必要が感じられないくらい,社会的な地位が安定している.したがって,「公用語」は日本にもイギリスにも必要がなく,存在しないものである.そこへもってきて,日本で英語を「第二」公用語にすべき,あるいはすべきでないと論じることは,それ自体がおかしな話である.
上の引用にはアメリカの国名も含まれているが,連邦レベルでは英語が公用語とされていないものの,州によっては英語公用語化が進められている.この件については,「#256. 米国の Hispanification」 ([2010-01-08-1]),「#1657. アメリカの英語公用語化運動」 ([2013-11-09-1]),「#2610. ラテンアメリカ系英語変種」 ([2016-06-19-1]) で関連する話題に触れたが,背後にはアメリカ国内で増加するスペイン語話者の存在,hispanification という社会現象がある.最も国際的な言語である英語が,まさにその母語話者数において最大を誇るアメリカという国のなかで,圧力を受けているのである.
「公用語」とは,何らかのプレッシャーの存在を前提とする概念であり用語である.
・ 鈴木 孝夫 『あなたは英語で戦えますか』 冨山房インターナショナル,2011年.
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