7月28日付けで掲示板に質問をいただいた flute の語源について,少し調べてみたところを報告したい.
様々な語源辞書を引き比べたところ,いずれも最終的にはおよそ語源不詳という結果に行き着いた.しかし,共通して不詳とされているのは語末子音 /t/ の部分であり,語頭子音群 /fl/ に関しては,ラテン語の動詞 flāre (to breathe; to blow) あるいは flagrāre (to flame) の語頭子音群と語源的に一致しており,いずれも印欧語根 *bhel- (to shine, flash, burn) に遡ると考えてよさそうだ.つまり,語頭部分に関する限り,ラテン語やその娘言語からの借用語 flagrant, flame, flamboyant, flamenco, flamingo などと語根を同じくするといえる.英語本来語でいえば,blow も同根である.フルートは「吹く」ものということだ.
注意したいのは,この印欧語根 *bhel- は,affluent, fluent, fluid, influence などのラテン語根 fluere (to flow) とは直接には関係しないようだということである.こちらは,異なる印欧語根 *bhleu- (to swell, well up, overflow) に遡る.ただ,2つの印欧語根 *bhel- と *bhleu- のあいだに直接的な関係はなさそうだとはいっても,完全に無関係なのかどうかは,比較言語学の高度に専門的な部分なので私には踏み込むことができない(語源辞書には後者から前者へ cf. が付されていた).
上では flute の語頭子音群について,やや込み入った説明を施したが,次に語末子音 /t/ について見てみよう.この語は,意味的に考えて flageolet (フラジオレット;高音の縦笛)と関係があるだろうということは認めてよさそうだ.flageolet は,同楽器を意味する古プロヴァンス語の形態 flaujol や古フランス語の形態 flageol, flajol に指小辞がついたものである.ここで問題は,古プロヴァンス語の flaujol などを出発点として,いかにして flute という形態が生じうるかである.Oxford 系の語源辞書を始め多くの辞書では,別の楽器 lute (リュート;琵琶に似た弦楽器)の古プロヴァンス語形 laüt を後ろに添えて複合語とした *flaujollaüt から作られた混成語 (blend) ではないかという提案がなされている.
しかし,比較的よく支持されているようにみえるこの混成語説は,Barnhart の語源辞書では否定的に扱われている(以下に引用).端的にいえば,フルートとリュートは,ともに楽器であること以外の共通点はなく,語源的な絡みを想定するのは強引だろうという意見だ.そう言われると,確かに強引な気もする.
flute n. Before 1325 floute the musical instrument; earlier, implied in flouter a flutist (1225, as a surname); borrowed from Old French flaüte, fleüte, from Old Provençal flaüt, of uncertain origin; perhaps an alteration of flaujol (in Old French flajol) FLAGEOLET with some unknown form, but probably not lute as is often suggested, because in particular the lute was a stringed instrument held and played in a different manner that had no suggestion of the flute about it.
全体としてまとめれば,flute の語末子音 /t/ の由来については何ともいえないが,語頭子音群 /fl/ については,「吹く」を意味するラテン語 flāre と同根であると言える(ただし,「流れる」を意味するラテン語 fluere とは同根ではない点に注意).
・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.
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