「#2043. 英語綴字の表「形態素」性」 ([2014-11-30-1]) の記事の後半で,動詞 <pronounce> に対して名詞 <pronunciation> と綴られる理由に触れた.近現代英語の綴字はより表語的(より正確には表「形態素」的)な体系へと発展してきたが,前時代的な表音性も多分に残っており,この例のように <ou> = /aʊ/, <u> = /ʌ/ の関係が守られているケースがある.
しかし,派生関係にある動詞と名詞の語幹部分に異なる母音,異なる母音字があるというのは厄介なことには違いない.そこで,この不一致を是正しようという欲求,あるいは一種の類推作用が生じることは自然の成り行きである.名詞を <pronouciation> と綴ったり,/prəˌnaʊnsiˈeɪʃən/ と発音する試みが行われてきた.この試みはしばしば規範主義者から誤用とレッテルを貼られてきたが,逆にいえば,それほどよく用いられることがあるということだ.Horobin (247) にも,"commonly misspelled pronounciation" として言及がある.OED は次のように述べている.
The forms pronouncyacyon, pronounciacion, pronountiation, pronounciation show the influence of PRONOUNCE v. This influence is also seen in the pronunciation Brit. /prəˌnaʊnsɪˈeɪʃn/, U.S. /prəˌnaʊnsiˈeɪʃ(ə)n/, which has frequently been criticized in usage guides.
名詞における /aʊ/ の発音は,Web3 では "substandard" とレーベルが貼られており,Longman Pronunciation Dictionary では注意が喚起されている.
名詞形の問題の母音を表わす綴字については,この語がフランス語から借用された後期中英語より <u> が普通だったが,OED によれば <ou> をもつ異綴りが15世紀以来行われてきたという.そこで,EEBO (Early English Books Online) に基づいたテキスト・データベースで調べてみると,16--17世紀には確かにパラパラと <ou> の例が挙がる.多少の異形も含めて検索した結果は以下の通り.
Period (subcorpus size) | <pronunciation> etc. | <pronounciation> etc. |
---|---|---|
1451--1500 (244,602 words) | 0 wpm (0 times) | 0 wpm (0 times) |
1501--1550 (328,7691 words) | 9.73 (32) | 0.30 (1) |
1551--1600 (13,166,673 words) | 1.14 (15) | 0.30 (4) |
1601--1650 (48,784,537 words) | 1.35 (66) | 0.12 (6) |
1651--1700 (83,777,910 words) | 1.38 (116) | 0.19 (16) |
1701--1750 (90,945 words) | 0 (0) | 0 (0) |
Period (subcorpus size) | <pronunciation> etc. | <pronounciation> etc. |
---|---|---|
1710--1780 (10,480,431 words) | 31 | 2 |
1780--1850 (11,285,587) | 43 | 0 |
1850--1920 (12,620,207) | 64 | 0 |
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