hellog〜英語史ブログ

#1213. 間接目的語の位置の固定化の歴史[word_order][syntax][lexical_diffusion][statistics]

2012-08-22

 [2009-09-06-1]の記事「#132. 古英語から中英語への語順の発達過程」で取り上げた Fries の調査は,英語の語順の発達に関する重要な研究である.先の記事では,動詞に対する直接目的語の相対的な位置に関する通時的推移のみを取り上げたが,Fries はほかにも直接目的語や動詞に対する間接目的語の相対的な位置や,被修飾名詞に対する形容詞や属格名詞の相対的な位置をも対象としている.今回は前者について紹介する.
 古英語からは,900--1000年の範囲のコーパスより2558例を集めた F. C. Cassidy の調査結果を参照している.間接目的語と直接目的語の位置関係について,前者が名詞か代名詞か両者を含むかにより,次の統計値を得た (202) .

OE Corpus (900--1000)Dative-object before acc-obj.Dative-object after acc-obj.
Nouns249 (64.0%)140 (36.0%)
Pronouns674 (82.8%)141 (17.2%)
Both together923 (76.6%)281 (23.3%)


 全体として間接目的語の前置される傾向が目立ち,とりわけ代名詞の場合には,それが著しい.この傾向は,c1200年の初期中英語コーパスにおいても際立っており(約8割が前置),かなり早い時期から明確なパターンだったことがわかる.
 間接目的語と動詞の位置関係については,古英語および初期中英語のコーパスから次の結果を得た (202) .

OE Corpus (900--1000)Dative-object before the verbDative-object after the verb
Nouns95 (27.6%)249 (72.4%)
Pronouns495 (48.7%)518 (51.3%)
Both together587 (43.4%)767 (56.6%)
EME Corpus (c1200)Dative-object before the verbDative-object after the verb
Nouns26 (23.0%)88 (77.0%)
Pronouns218 (43.0%)288 (57.0%)
Both together244 (39.4%)376 (60.6%)


 古英語では必ずしも明確な傾向を示すわけではないが,動詞の後位置のほうが優勢である.この傾向は,初期中英語で拡大されてゆく.
 上に述べた間接目的語の相対的位置の傾向は後期中英語にかけて強化され,現代英語に見られるような「動詞の後,直接目的語の前」という規則が15世紀後半までに確立していった (203) .

 ・ Fries, Charles C. "On the Development of the Structural Use of Word-Order in Modern English." Language 16 (1940): 199--208.

Referrer (Inside): [2012-08-23-1]

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