hellog〜英語史ブログ

#1026. 18世紀,英語からフランス語へ入った借用語[loan_word][french][history]

2012-02-17

 [2012-02-03-1]の記事「#1012. 古代における英語からフランス語への影響」で触れたように,フランス語が英単語を借用語として受け入れ始めたのは,古代の可能性を抜きにすれば,18世紀になってからである.現在でこそフランスでは英語の流入への反発が叫ばれるなどしているが,18世紀にはむしろイギリスへの心酔があった.
 18世紀といえば,フランス語の地位はヨーロッパの国際社会のなかで最高潮に達しており,[2011-03-06-1]の記事「#678. 汎ヨーロッパ的な18世紀のフランス借用語」でみたように,英語へも国際的なフランス単語が流れ込んでいた.このフランス語の栄光を思えば,フランスのイギリスへの心酔とは矛盾した表現のように聞こえるが,1つの反動としてそれは確かに存在したのである.政治,イギリス生活,異国趣味,商業・運輸の領域などで借用語が見られる.ホームズ・シュッツ (147)より,いくつかを挙げよう.

bill, budget, comité (< committee), corporation, excise; jockey, punch, redingote (< riding coat), rosbif (< roast beef), whist; albatros, antilope, chimpanzee, tomahawk; bushel, chelin (< shilling), drawback, dumping, macadam, whiskey


 英語史では,「○○語から英語への借用語」の例を列挙するのに熱をあげてきた.本ブログでも loan_word の記事で多く取りあげてきたし,「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1]) や「#201. 現代英語の借用語の起源と割合 (2)」 ([2009-11-14-1]) の記事がそれを代表している.しかし,特に英語が国際的な影響力をもつようになった近代以降については「英語から○○語への借用語」という観点が,英語史自身の側にも必要だと思う.英語から語彙的な影響を受けた言語の言語史では,例えば,日本語史などでは,もちろん英語からの借用語について研究されているのだが,そこでの成果をもう一度英語史側に戻してやって,英語史として総括することができればよいと考える.これは英語語彙史の話題にはなりえないが,英語の国際的な影響力の増大という話題にはなる.もっとも,近代から現代へと時代が下るにつれ,個々の言語へ個別に語彙的影響を与えるというよりは,国際的に一括して影響を与えるという傾向が強まるだろうから,英語史としても大雑把な総括になるのかもしれないが.
 日本語に入った英単語については,今後,少しずつ話題にしてゆきたい.

 ・ U. T. ホームズ,A. H. シュッツ 著,松原 秀一 訳 『フランス語の歴史』 大修館,1974年.

Referrer (Inside): [2015-04-19-1] [2012-03-13-1]

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