昨日の記事[2009-12-10-1]に引き続き,英語変種のモデルを掘り下げる.
[2009-12-10-1]で示したモデルによれば,英語話者がある状況において用いる変種 ( variety ) は,"the common core" と六つのパラメータの値で記述できる.逆にいえば,"the common core of English" に六つのパラメータの値を掛け合わせると,ある一つの変種が定まる.
だが,このように定まった変種の内部においても,まだ変種は現れうる.例えば,同じ話者が同じ環境・文脈で,意味的・語用的な差を含めずに,二つ以上の表現を選択肢としてもつ場合がある.Quirk et al. (30) は次のような例を挙げている.
He stayed a week or He stayed for a week
Two fishes or two fish
Had I know or If I had known
一方が他方よりも形式的である,などということが統計的にはあり得るかもしれないが,それほど明確な差ではない.この場合,六つのパラメータによって定められた変種の内部に,ミクロなレベルでの変種が潜んでいること ( varieties within a variety ) を示唆する.このミクロな変種内の構造は,以下のようにモデル化されている.
ある一つの変種,例えば,イギリスの標準英語で,英語史の講義を口頭で比較的インフォーマルな言葉遣いおこなっている場合の英語変種を想定しよう.英語史の専門用語を用いる場合には,およそ固定化している用語が多いので,"relatively uniform" なミクロ変種を用いていることになる.しかし,講義は専門用語だけで進めるわけではなく,特にインフォーマルな言葉遣いで進めている場合には,くだけた話しを含めることもあるだろう.強調語を使う必要が生じたときに,very, indeed, not a little, really などの比較的多様な ( "relatively diverse" ) 表現が選択肢として考えられるが,これは講義者個人のもっている選択肢というよりは,講義者を含めた言語共同体で広く共有されている選択肢 ( "variation in community's usage" ) と考えるべきだろう.だが,講義者個人の口癖として very, very, very, very, very や to a gigantic extent といった変わり種の強調語を選択肢としてもっている場合 ( "variation in individual's usage" ) ,このいずれを用いるかは完全に個人的な選択の問題である.
variety の所在を突き詰めると,結局,個人語 ( idiolect ) に行き着いてしまうようだ.
・Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972. 30--32.
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