目録処理プロセスのモデリングを踏まえた、目録規則(記述規則)の新たな概念設計法を提案している。ここで目録規則とは、書誌レコードを構成する個々のデータ要素の記述処理、アクセスポイント・標目の選定・付与処理等を詳細に規定したものを指している。提案する設計法は、テキストレベル実体を基盤とした概念モデルに依拠する書誌レコード作成にのみ適用可能なものではなく、汎用的な設計法を意図している。
1)目録処理プロセスに係る機能要件および非機能要件の両者を適切に定義しうる概念として、新たに「指向性(orientedness)」を導入し、既存の目録規則の分析を行った。指向性とは、ある特定の目的や機能を目指す意図の方向性または特性を指し、目的合理性とも呼びうる概念として定義した。分析の結果、記述に関わる原則群およびアクセスポイント・標目に関わる原則群の殆どについて指向性に基づき適切に解釈・評価でき、さらには既存規則の個別規定(ルール)および他の可能な選択肢のそれぞれについて指向性の観点から相互の差異を明確化し評価しうることが確認できた。
2)目録処理プロセスの概念レベルにおける汎用モデルと上記の指向性の概念とを用いた、目録規則の新たな概念設計法を提案した。提案した設計法は、下記のフェーズから構成される。
2-a)要求定義フェーズ:指向性を用いて必要な機能要件・非機能要件を定義し、加えて処理プロセスを構成する基本的な処理タスク(目録作成者タスク)群を定義した。
2-b)基本モデル構築フェーズ:すべてのデータ要素に基本的に共通する、個別処理タスクごとの基本事象パターン、個別基本事象パターンごとの基本処置パターンおよびそれに伴う指向性の指示からなる基本モデルを構築した。基本モデルはいかなるシステムや環境にも適用可能な汎用モデルとなる。
2-c)基本モデル展開および限定化フェーズ:基本モデルに個々のデータ要素固有の事実や知識を適用し、個別要素に関わるすべてのパターンを展開した後、特定のシステムや環境に合致するよう、指向性を基準にして、展開されたモデルから任意の部分集合を選び出す方式を提案した。いくつかのデータ要素を例に取り上げ、展開および限定化を試行し、妥当な概念設計が行われる点を確認した。
3)提案した設計法を、従来の目録規則が扱っていない新たな課題「根拠の記録を伴う記述法」に対して適用し、必要な規則の概念設計が矛盾なく実行できる点を確認した。
以上の点に基づき、(a)提案した概念設計法は、一貫性のある、かつスケーラブルな規則設計をもたらし、さらには(b)旧来の処理を越えた新たな課題にも適用可能であるとし、提案した概念「指向性」をも含めて、同設計法が有効かつ妥当であると結論づけた。